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○遺言・相続Q&A

 ○ 遺言

  •  世の中では、相続を巡り親族間で争いの起こることが決して少なくありません。しかし、親族関係は、相続紛争終了後も続くのですから、相続人としては、できることなら相続人間で骨肉の争いが起こらないように手当をしておいてもらいたいものです。もし大した資産はないから自分の遺産を巡って相続争いをすることはないであろうとお考えでしたら、それは思い込みに過ぎません。例えば、主なあなたの資産が自宅不動産だけという場合でも公平に分割するためには、売却処分しなければなりません。もしその家に居住する相続人がいれば、遺産分割のために売却処分をしようとしても、その相続人の協力を得られない可能性があります。とくにその相続人があなた方夫婦と同居して、その世話をしてきたという場合は、より一層、その可能性が高くなります。
     また、 相続問題が起こるまでは、一見円満な関係であっても、 その裏には不満が鬱積していることがあります。例えば、長男夫婦が被相続人である両親と同居している場合、若かりし頃は嫁姑の苦労をし、両親が年老いてからは介護の負担など被相続人の生前に大変な苦労をしている場合があります。このような場合に、遺言書がないからと言って、 次男や三男が長男と同等の法定相続分を主張してきた場合、長男夫婦としては自分達の苦労が相続分に反映されないことに多大な不満を抱くものです。その不満は、「なぜ父は、遺言書を作成しておいてくれなかったのか」というように被相続人にも向けられます。しかしながら、次男らからすれば、嫁姑の対立や介護の苦労を頭では分かっていても、だからといって相続分にしてどの程度譲らなければならないものかは、判断がつきません。介護サービスを受ければさほど多額の費用はかからないはずと考えるものです。このような行き違いが 親族間の感情的対立を招き、それが一定のレベルを超えると、 合理的判断ができなくなり、 法定相続分で分割するという解決を拒絶するということになります。もちろん、全相続人が金銭に対する執着心の少ない人ばかりであるということもあるでしょうが、そのような希な場合でも相続人間に被相続人を扶養した程度も違えば、相続時の生活状態にも経済的な格差が生じているでしょうし、それぞれの配偶者の意向もあり、全相続人が合意できる遺産の分割は決して容易なことではありません。
  •  遺言は、上記のような悲劇を防止するため、遺言者自らが、自分の残した財産の帰属を決め、相続を巡る争いを防止しようとすることに主たる目的があります。
     とくに以下の場合は、相続人間で遺産を巡っての争いが生じやすいといういことができますので、是非、遺言書を作成して下さい。 
    @ 夫婦の間に子供が無く長年連れ添った配偶者に財産を全部相続させたい場合
    A 再婚をし、先妻の子と後妻がいる場合
    B 被相続人と同居していた子夫婦に子がなく、その子が配偶者を残して先に亡くなっている場合で子の配偶者に財産を分けてやりたい場合
    C 婚姻届けを出していないが、長年夫婦として連れ添ってきた内縁の配偶者に財産を残してあげたい場合
    D 個人で事業を経営したり、農業をしている場合で、その事業等の財産を特定の者に承継させたい場合
  •  また、遺言書を作成してさえおけば、争いにならないのかというと、そうではありません。例えば、「財産の3分の1ずつ兄弟で分ける」といったように、法定相続分とは異なる分割割合での相続を遺言した場合、その遺言の内容は明確ですが、相続財産が預貯金のみであればともかくも、そうでない場合は相続人間で相続財産をどのように分配するかを巡って争いとなる可能性があります。紛争防止という観点からは遺産の分割割合を定めるだけの遺言はあまり意味がありません。一義的に誰がどの財産を相続するかが明確な内容であり、遺留分を侵害していないことなどが必要です
  •  もっとも、遺言書は、「遺言書」と題して、相続人に言い残したいことを書けばよいというものではありません。法律上、有効な遺言書と認められるためには、法律で定められた作り方をする必要があります。それ以外の方法で作成された遺言書は、遺言としての法的効力を生じないのです。
遺言のないときはどうなるのですか。
  •  遺言のないときは、民法が相続人の相続分を定めていますので、これに従って遺産を分けることになります(これを「法定相続」といいます。)。その民法は、例えば、「子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。」というように、抽象的に相続分の割合を定めているだけですので、遺産の帰属を具体的に決めるためには、相続人全員で遺産分割の協議をして決める必要があります。
     しかるに、もし遺産の中に不動産があれば、その不動産を相続したいと希望する相続人は、できるだけ安く評価して、他の預貯金等もより多く相続したいと目論むでしょう。人間、誰しも、少しでも多く、少しでもよいものを相続したいというのが自然な欲求です。しかも、このような話し合いは、相続人の他にもその配偶者が口だしすることもままあることです。そのため、相続人間の話し合いで遺産分割協議をまとめるのは、必ずしも容易なことではありません。
     協議がまとまらない場合には、家庭裁判所で、調停又は審判で解決してもらうことになりますが、これも争いが深刻化して、解決までに長期間を要することが多々あります。
 遺言は、いつするべきものでしょうか。
  •  遺言は、死期が近づいてからするものと思っておられる人がいますが、それは全くの誤解です。人間は、いつ何時、何があるかも分かりません。いつ何があっても、残された家族が困らないように、相続人間に紛争が生じないように備えておくことが、遺言の作成ということなのです。つまり、遺言は、自分が元気なうちに、自分に万一のことがあっても残された者が困らないように作成しておくべきものなのです。
     また、遺言は、判断能力があるうちは、死期が近くなってもできますが、判断能力がなくなってしまえば、もう遺言はできません。遺言をしないうちに、判断能力がなくなったり、死んでしまっては、後の祭りで、そのために、家族の悲しみが倍加する場合もあることでしょう。すなわち、遺言は、元気なうちに、備えとしてしておくべきものなのです。
     もっとも、公正証書遺言を作成するとなると、費用がかかるうえ、証人となってもらう人2名を確保し、公証役場に出向かなければならないことから、どうしても億劫になってしまうことでしょう。そのような場合は、自筆証書遺言でも結構ですので、作成しておくことをお勧めします。
 遺言は、訂正や取消し(撤回)が自由にできますか?
  •  遺言は、人の最終意思を保護しようという制度ですから、訂正や取消し(遺言の取消しのことを、法律上は「撤回」と言います。)は、いつでも、また、何回でもできます。遺言は、作成したときには、それが最善と思って作成した場合でも、その後の家族関係を取り巻く諸状況の変化に応じ、あるいは、心境や考えが変わったりして、訂正したり、撤回したいと思うようになることもあると思います。さらに、新たに不動産を取得したり、株式投資をしたりして、財産の内容が変わった場合には書き直しをする必要があります。
     以上のように、遺言は、遺言作成後の諸状況の変化に応じて、いつでも、自由に、訂正や、撤回することができますが、いずれのときも遺言(その種類は問いません。)の方式に従って、適式になされなければなりません。
父は、余命わずかと悟って、子供を集めて、その全財産を長男たる私に相続させると言ってくれました。しかし、いざ亡くなって預貯金の解約や株式の売却処分への協力を姉や弟に求めると、遺言書がないのだから、3等分にして欲しいと言って、必要書類に判を押してくれません。父の言葉は、姉も弟も私と一緒に聞いていました。父の遺言として尊重されるべきではないでしょうか。
  • 遺言書の種類、作り方は法律で定められていますので、口頭での遺言は、遺言としての法的効力を生じません。もちろん、遺産分割協議の際に、相続人全員が被相続人の意思を尊重し、合意することは自由です。しかし、これはあくまでも他の相続人が応じてくれたときのことです。
  •  もし姉や弟が口頭での遺言は無効だとして、法定相続分を主張してきたとしたらどうでしょうか。長男やその妻が被相続人の生前、 嫁姑の諍いや、介護に大変な苦労を強いられていたとしても、姉や弟と同等の相続分しか認められないとなると、自分達の苦労が相続分に反映されないことに不満を持つことは明かです。その結果、口頭とは言え、亡父の遺言だとして、強行に全財産の相続を主張して譲らず、相続紛争になりかねません。
  •  相続紛争が生じないように遺言をしたいというのであれば、法律に定められた方式の遺言書を作成することが肝心です。
長男夫婦は、われわれ老夫婦と同居して、町内会の付き合いや田畑の耕作をしてくれています。自宅や田畑など私のものは、すべて先祖伝来の財産であるから、家を継いでくれた長男にすべて相続させたいと考えているのですが、どうすればよいのでしょうか?
  •  遺言書の作成に際しては、先祖伝来の財産であるから、すべて長男に相続させたいという強い希望をお持ちであっても、他の相続人の遺留分を侵害することの無いようにする必要があります。つまり、自身の遺産すべてを特定の子に相続させることは、実際上、不可能です。
  •  かって、そのような遺言書の作成を依頼された際、他の子にもいくばくかの遺産を残すように遺言することを勧めたことがありました。その金額は遺留分相当額には達していませんでしたが、亡くなった後、長男夫婦から、次男や長女が「おじいちゃんが自分たちのことも考えてくれていたんやなあ〜。」と大変、感謝されたという報告を受けるとともに、相続を巡っての紛争にはならず、後々の兄弟関係を考えるとよかったと喜ばれました。
遺言書を作成したいが、法律が定めている自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言のうち、どの種類の遺言書が望ましのでしょうか。
  •  自筆証書遺言(遺言者が全文、日付、氏名を自筆で書いて、印を押したもの)は、一番簡単で、費用もかからない方法ですが、遺言書が紛失する可能性もありますし、相続開始後、その遺言内容が気に入らない相続人から、「被相続人の筆跡ではない」とか、「変造されている」とかの主張がなされる可能性があり、遺言書の効力を争う訴訟に発展する可能性があります。また隠匿されてしまうおそれも否定できません。
     これらのことが心配だということであれば、封印したうえで、信頼できる第三者に預けておくことです。
     封印されている自筆証書遺言は、開封する前に家庭裁判所へ持って行って、「検認手続」をしなければなりません。これは自筆証書遺言が遺言者の意思によって作成したものかどうかを確かめ、遺言書の偽造や変造、紛失を防止するために必要とされています。
     この検認の手続をしないで遺言書を開封しても、遺言が無効になるわけではありませんが、その開封した人は5万円以下の過料に処せられることがありますので注意してください。
  •  多くの弁護士が勧めるのは、公正証書遺言です。
     公正証書遺言は、地方法務局嘱託の公務員である公証人が作成した遺言書のことで、遺言をしようとする人が証人となってくれる人2人を伴い公証役場に出向き、遺言者が公証人に遺言の趣旨を口述し、公証人がこの口述を筆記します。筆記したら、公証人が遺言者と証人に読み聞かせ、遺言者と証人が署名・押印し、さらに、公証人も署名・押印して完成します。遺言を公正証書ですることは、非常に確実・安全であり、検認手続も不要で、死後すぐに遺言の内容を実行することができます。さらに公正証書の原本は公証役場に保管されるので、紛失・変造の心配もありません。
     遺言者が入院中など、公証役場に出向くことができないときは公証人が病院等に出張することもできます。ただし、日当と交通費がかかります。
  •  秘密証書遺言(はあまり利用されていないようです。作成方法としてはまず、自筆でなくてもワープロでも代筆かまいません。さらに日付も不要です。ただし署名・押印は必ず必要です。それで完成したら、それを封筒に入れて、証書に用いたのと同じ印章で封印します。この封入・封印は必ず遺言者が行わなければなりません。そして次にこれを持って証人2人と供に公証役場に出向き、公証人に提出して自分の遺言書であることを述べます。そうすると公証人が証書の提出された日付と遺言者の申述を封書に記載してくれるので、遺言者、証人、公証人全員が封書に署名・押印して秘密証書遺言が完成となります。遺言の内容を公証人にも証人にも秘密にできるので、とにかく秘密にしたいという人は利用価値があると思います。ただし自筆証書遺言と同じく、遺言者の死後すぐには開封できず、家庭裁判所に検認の申立をしなければなりません。
 私は、創業200年という伝統ある菓子屋の8代目で、長男とともに今日まで経営してきました。私の財産としては、その店舗兼工場と製造機械、それに多少の預金しかありません。菓子屋を長男に継がせるつもりなのですが、そのためには運転資金のこともあり、私の財産のすべてを長男に相続させる必要があります。このことは会社員をしている次男も理解してくれているのですが、次男の妻はことあるごとに長男の子と自分達の子を公平に扱って欲しいと言っていますので、私が死んだ後、長男が私の財産全部を相続して家業を継いでいくことができるか心配です。なにか良い方法はないでしょうか。
  •  財産を全部を生前に長男に贈与するか、財産すべてを長男に相続させる旨の遺言書を作成するととともに、次男に対しては、そのような遺言をする必要性を十分に説明し、自らが申立人となって、家庭裁判所に遺留分放棄について許可を求める申立てをしてもらう必要があります。
     遺留分放棄の許可審判に際しては、まず遭留分を放棄するという意思表示が申立人の自由意思に基づくものであるか、次に均分相続の理念に反するような強制によるものではないか、相当な生前贈与があったか否か、遺留分放棄が相当な理由があるのかなどが審理されますので、次男が協力的ではないと無理が生じます。
     ただ遭留分放棄の許可審判がなされたとしても、非訟事件手続法19条1項により、後日その審判が取り消される可能姓があり得ます。したがって、そのようなリスクを考えれば、遺留分権利者の遺留分を実質的に確保するような措置を検討するのが賢明ではないかと思われます.

○相続放棄

 亡父の遺産について、母と兄弟姉妹の間でどうするか相談したのですが、長男から兄弟姉妹間での財産分けは母が亡くなってからでよいから、亡父の財産はすべて母親に相続してもらったらどうかという提案があり、兄弟全員がその提案に同意しました。相続手続きとしてはどうすればよいのでしょうか。?
  •  母親が全財産を相続するという内容の遺産分割協議書を作成すれば可能です。
     間違っても相続放棄の手続きをしてはいけません。第1順位の相続人である子が相続放棄をしたときは第2順位の相続人である祖父母が、祖父母が亡くなっている時は、第3順位の相続人である亡父の兄弟姉妹があなたがたの母とともに亡父の遺産を相続することになります。そのため母親が亡父の兄弟姉妹と遺産分割の話し合いをせざるを得なくなります。

○遺産分割

  •  弁護士が受任する相続案件は、すでに紛争になっている事案や、依頼者自身が紛争になる可能性が高いと考えている事案が大多数です。しかしながら、依頼者が話し合いでの解決が無理だと言っているからといって、他の相続人と何ら事前の交渉もせずにいきなり遺産分討調停の申立をすると、相手方とされた相続人の感情をいたずらに害する琴になりかねません。日頃、裁判所と何ら関わりなく生活している人が、突然、裁判所からの呼出状を受け取ることになるのですから、無理はありません。
     私共が遺産分割事件を受任した場合は、裁判外での話し合いで遺産分割協議の成立が見込めない場合でも、まずは丁寧な申入れを行います。その結果、話し合いが無理であると思われるときは、遺産分割調停を申し立てることを事前に連絡をしたうえで、いよいよ家庭裁判所に調停を申し立てます。紛争事案を扱うことが多く、裁判所を特別なものと考えない弁護士にとっては、ともすれば、このような市井の人々の感覚に対する配慮を欠くことがあるのですが、余計な感情的対立を招き調停の成立を困難にさせることになりかねません。
 相続人の中に未成年者がいるのですが、両親はすでに亡くなっており、その親権を行使するものがいません。その場合に相続手続をするためにはどうすればよいのでしょうか。
  • 未成年後見人を選任する必要があります。相続放棄については民法917条の特例が規定されています。ただし、未成年者が18歳とか19歳であれば、成人するのを待って相続手続をするというのが実際的でしょう。 
相続人の中に認知症の方がいます。その子が代理として遺産分割協議をしてきたのですが、まとまりませんでした。いよいよ遺産分割調停を申立てるつもりなのですが、認知症を相手として裁判所での調停は可能なのでしょうか。
  • 事前に後見開始申立てを先行させておく必要があります。このような場合、弁護士が成年後見人に選任されることが予想されますが、成年後見人としてほ、法定相続分の確保は譲ることができませんので、それが可能であれば遺産分割の協議はスムースに進められます。
相続人の中に行方不明者がいます。このままでは遺産分割の話し合いさえできないのですが、私は事情があって、できるだけはやく財産が欲しいのですが、どうすれば相続手続きを進めることができますか。
  •  相続人の中に行方不明者がいるときは、その人のために不在者財産管理人選任申立をする必要があります。その申立がなされると、家庭裁判所は、不在者財産管理人選任の前提として不在者の調査を行います。その調査の過程で所在が判明することもあります。
  •  不在者の所在が判明しなかった場合は、家庭裁判所によって不在者財産管理人が選任されます。そして、その不在者財産管理人が不在者の指定代理人として、遺産分割協議に参加します。多額の遺産がある場合には、不在者の法定相続分相当額を確保できるような遺産分割の内容にする必要がありますが、元々不在者の法定相親分相当額が数百万円にも満たないような場合には、『帰来時弁済』と言って、他の相続人、特に法定相親分よりも多い目の遺産を取得する相続人に対して、不在者が帰来した場合にはその相続人から不在者に対して不在者の法定相続分相当額を弁済することを確約させたうえ、不在者が取得すべき法定相続分相当額を他の相統人に委ねてしまうという方法もあります。ただし、家事審判官によってほ、帰来時弁済を認めないこともあります。
  •  なお、不在者財産管理人が選任された後も財産管理人として不在者の調査を行います。財産管理人からの要請により家庭裁判所が再度調査を行うこともあります。
伯母さんが亡くなったのですが、生涯独身で、子供はなく、その両親も、兄弟姉妹もすでになくなっているということで、伯母さんの兄弟姉妹の子が相続人になるというのですが、16名の相続人のうち、一人が家督を相続した長男が相続すべきであるとして、法定相続分にしたがった分配にどうしても応じようとしません。何度か話し合いをしたのですが、うんざりしております。遺産分割はいつまでにしなければならないという期限はあるのでしょうか?
  • 遺産分割は、相続が開始してからいつまでに行わなければならないという期限はありません。しかし、分割協議を放置しておくと不動産の名義の変更や預貯金等の解約、あるいは株式の処分を行うことはできません。不動産が被相続人の名義のままでは、賃借人からの賃料の収受と固定資産税の支払いをどうするかなどの問題もあり、放置しておくメリットはありません。もっとも、預貯金については、金銭債権であり、法定相続分にしたがった払戻請求権を相続により取得したものとして自分の相続分に応じた払戻請求は可能です。金融機関により対応に差異があると思いますが、最高裁の判例もあります。
  •  さらに、相続税の申告は、被相続人が亡くなってから10ヶ月以内にする必要がありますが、もし 相続税申告時までに遺産分割協議が成立しない場合は、各相続人がそれぞれ独自に遺産未分割 (法定相続分による共有) のまま、 それぞれが相続税申告をすることになります。
  •  なお、相続税申告時までに遺産分割協議が成立しない場合は、配偶者の相続税額控除、小規模宅地の評価減の制度などの税額軽減の特例を受けることができません。
 伯母さんの兄弟姉妹の子16名のうち、前述したように一人が家督を相続した長男が相続すべきであるとして、法定相続分にしたがった分配にどうしても応じようとしません。遺産分割調停の申立をしなければならないかと考えているのですが、他の相続人の半数は遠方に住んでいますし、1名は近隣に住んでいるので日常の付き合いもあり、裁判所の調停手続きには出席しにくいといっています。良い方法はないでしょうか。
  •  遺産に関する紛争調停として、一般調停の申立てをすることが考えられます。遺産分割調停では相続人全員を当事者としなければなりませんが、一般調停であれば、意見が対立する相続人のみを相手方とする申立てができます。そこで、まずは、直接の紛争当事者間で遺産に関する紛争調停の申立てをし、そこで基本的な合意が成立すれば、他の相続人も含めて改めて遺産分割調停の申立てをすれば、全体としての紛争解決ができます.
 亡伯母の財産としては、土地のほかに多額の銀行預金があります。私は、事情があって、早急に預金だけでも自分の相続分をもらいたいのですが、何か方法はないでしょうか。
  • 預金債権は、可分債権(分割できる債権)ですので、相続分に応じた払戻請求が可能です。請求を受けた金融機関としては、相続人間に争いが発生していたり、遺言が存在する可能性があることを想定して、容易には法定相続分による払戻に応じてくれないかも知れません。そのような場合でも、訴えが提起されれば、第1回期日前に任意に払戻に応じてくれる可能性があります。もっとも、慎重な対応としては、訴えが提起されただけでは払戻に応じず、他の相続人に訴訟告知をし、そのうえで、裁判上の和解が成立すれば、その内容に則して払戻をするか、判決の確定を待って判決主文に応じて支払をするといった対応が考えられます。いずれにせよ預金債権については、遺産分割協議の成立を待つことなく払戻を受けることが可能です。
 相続人の中から、「伯母さんは、戸籍上は結婚していないが、一緒に生活をしていた人がいたと聞いている。我々以外に相続人が居る可能性があるのではないのか?」という申し出があった。どうすればよいのか?
  • 遺産分割協議は、戸籍上の相続人間で行われれば足ります。もちろん、戸籍上、子がいない場合でも、子がある可能性は否定できません。死後認知といった制度もあり、戸籍上は子となっていなくとも、DNA鑑定をすれば、子であることが証明できるという場合があります。
  •  死後認知の申立がなされ、子と認定された場合、認知は、出生の時にまでさかのぼって効力を有しますので(民法784条本文)、子と父親は法律上の親子関係が生じます。遺産分割協議が終わっていなければ、その認知された子も含めて協議を進めていけばいいのですが、協議が終わってしまっていた場合は、相続分に応じた価額のみによる支払請求ができます(民法910条)。法は、遺産分割協議のやり直しは、遺産分割を前提に生じている様々な法律関係に影響を与え、混乱を生じるおそれがあるとして、これを認めず、一方で死後認知を受けた子の利益を護るべく、相続人に対する価額の支払請求による救済を与えたのです。
 預貯金通帳や株式の配当通知等で伯母さんの遺産が判明したが、それですべてであるのか分からない。このような場合、遺産分割協議を進めてもよいのか?
  • 遺産分割協議を始めるにあたっては、まず遺産の内容を正確に把握する必要があります。
     しかしながら、被相続人が生前、 内容を相続人に教えていなかったり、 被相続人自身が自己の財産の内容を把握していないという場合もあります。
  •  不動産であれば、市役所の固定資産税課で相続人であることを示して、固定資産名寄帳兼土地家屋(補充)課税台帳の交付を求めれば判明します(漏れがないとは言えませんが・・。)。預貯金や株式は、被相続人宛に送られてくる郵便物で判明することもあります。 被相続人の残した郵便物や日記やノートを調べたり、 銀行や証券会社に問合わせたりするほかなく、その調査は容易ではありません。そのため遺産分割協議成立後に漏れている遺産が判明することもあります。後日、新たに遺産が見つかった場合には、再度協議を行うことが必要となります。
 私は、海外に居住しているのですが、自分の知らない間に多数決で遺産分割協議がなされてしまわないのでしょうか?
 私が遺産分割協議に参加するためには、帰国しなければならないのでしょうか。
  •  遺産分割協議は、相続人全員が参加し、相続人全員が納得しないと遺産分割協議は成立しません。相続人全員が参加していない遺産分割協議や多数決で決した遺産分割協議は無効です。
  •  もっとも、相続人全員が同じ場所に集まって行わなければならないものではありません。相続人が遠方にいたり、相続人が大人数の場合は、全員が集まるのが困難な場合があります。このような場合、支障がなければ、電話やファックスなどの通信手段を用いて協議を進めることもできます。あらかた合意が成立したときは、協議書案を作成して、それをたたき台に加筆訂正を加えていくことで協議を進めることもできます。
 「遺産分割協議書」は、1枚の書面に相続人全員が記名(または署名)・押印しなければならないのでしょうか?
  • 遺産分割協議で共同相続人全員の合意が得られた場合は、それを証する「遺産分割協議書」を作成します。具体的な分割の内容を記載した上で、相続人全員が記名(または署名)・押印(実印による)します。相続人の個々の印鑑証明書も必要です。この遺産分割協議書がないと、不動産の登記や株式の売却処分、あるいは、銀行預金の解約手続きが実際上不可能となります。
  •  なお、遺産分割協議書は、これを作って相続人の間を持ち回って承諾を得る(印をもらう)ことでも可能ですし、相続人1人に1枚ずつ合意内容を記載したものに署名捺印してもらうという方法でも可能です。相続人が多人数の場合は、持ち回って承諾を得る方法は、事務的な負担が大きいうえ、時間もかかりますので、相続人1人に1枚ずつ合意内容を記載したものに署名捺印してもらう方法で遺産分割協議書を作成した方が良いでしょう。
 相続人の話し合いで遺産分割の内容が決まりました。遺産分割協議書を作成したいと考えていますが、方式とか決まりがあるのでしょうか。
  • 遺産分割協議書の形式については、遺言書のように法律で定められている分けではありません。しかし、その遺産分割協議書でもって、不動産の相続登記をしたり、自動車や株式、国債などの名義変更をしたり、あるいは、株式の売却処分や預貯金の解約等の手続きをするわけですから、自ずと制約はあります。
  • 被相続人が氏名、生年月日、戸籍、住所、死亡年月日等をもって特定されていること、相続財産が特定されていること(不動産がある場合は、その所在、地番、地目、地積、家屋番号、種類、構造、床面積、等登記簿謄本の記載内容をそのまま記載し、株式の場合は 銘柄・証券番号・株数を、預貯金の場合は、金融機関名(支店名)、口座の種類・口座番号・残高を記載する。)そして、相続人全員が住所氏名を記載して実印を押捺して、印鑑証明書を添付すること、遺産分割協議書が複数枚にわたるときは割り印をする必要があります。
  • なお、後日、もし新たに相続財産が発見された場合、そのような場合に誰が相続するのかを決めていないと、もう一度、遺産分割協議を行わなければならないことになります。   
  • 相談者から、ネットで調べて複数の遺産分割協議書を参考に作成したという遺産分割協議書を見せられて驚いたことがありました。相談者が口頭で説明されている内容と遺産分割協議書の内容が一致しないのです。幸い他の相続人も、相談者と同じように遺産分割協議書の内容を理解されていたようで、口頭で説明された内容で遺産を分けることができたとのことでした。もっとも、不動産の物件目録が不正確であったために、相続登記をする際には、再度、不動産の相続登記のための書類を作成する必要が生じましたが、他の相続人の協力を得ることができ、事なきを得ました。
  •  また、交通事故で亡くなられた方の相続人が作成した遺産分割協議書を見たことがあるのですが、事故の加害者に対する損害賠償請求権について何ら言及がされていませんでした。遺産分割協議の際、相続人間では「その余の財産」に含まれるということで納得していたというのですが、いざ加害者の加入していた保険会社から損害金の支払いを受ける段階になって、法定相続人全員の委任状を求められ、その損害賠償請求権を相続していない相続人がこれを拒否したため、多額の判つき料を支払わざるを得ませんでした。
 遺産分割協議を重ねたが、相続人の中に被相続人の世話をしたとして、より多くもらえるはずだとか無理な主張をしたり、何か財産を隠しているのではないかなどと疑い深いものがいたりして、話し合いが物別れに終わった。どうすればよいのでしょうか。
  •  家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。
     調停手続では、2名の調停員が、当事者双方から事情を聴いたり、必要に応じて資料等を提出してもらったり、遺産について鑑定を行うなどして事情をよく把握したうえで、各当事者がそれぞれどのような分割方法を希望しているか意向を聴取し、解決案を提示したり、解決のために必要な助言をし、合意を目指して話合いが進められます。そして、全員の同意が得られれば調停成立となり、「調停調書」という名前の遺産分割協議書が作成されます。一般の遺産分割協議書は相続人が署名押印しますが、調停調書では不要です。その代わりに裁判所の印があり強制力を持っています。約束を守らない他の相続人に対しては強制執行が可能です。
     しかし、調停はあくまでも調停委員が間に入った任意の話し合いの場です。そのために強制的に結論を出すことはありません。したがって、調停委員の斡旋・説得にもかかわらず、同意しない相続人がいる場合、調停は成立しませんし、 当事者の1名が調停への呼び出しに応じない場合も、 原則として調停は成立しません。
 遺産分割調停の呼び出し状が送られてきたのですが、私の住んでいるところから裁判所までいくとなると、時間と費用の負担が大変です。相続財産はもらいたいのですが、相続人の多数意見に従いたいと考えています。その場合でも、毎回、調停期日に出頭しなければならないのでしょうか。
  • 当事者が遠隔の地に居住していたり、病気、老齢等の理由により、調停期日に出頭することが客観的に困難な場合、あらかじめ調停委員会又は家庭裁判所から提示された調停条項案を受諾する旨の書面を提出し、他の当事者が期日に出頭してその調停条項案を受諾したときは、当事者間に合意が成立したものとみなされます。
  •  この点、遠隔の地に居住していたり、病気、老齢等の理由により、調停期日に出頭することが客観的に困難な場合は、出頭せずとも遺産分割調停に加わる方法があります。裁判所から調停期日の呼び出し状を受け取ったとき、回答書と題する書面が同封されていますから、「遠方に居住しているため呼出期日には出頭できない」ということ、「裁判所から調停条項案が提示されれば、その内容次第ですが、受諾する意思がある」ということを伝えておいて下さい。
     裁判所で調停が進められ、いよいよ出頭した相続人間でいよいよ遺産分割調停が成立するという見込みになった時点で、裁判所から事前にその調停条項案を示して受諾する意思があるかどうかが問い合わせがなされます。その際、調停条項案を受諾する旨の書面を提出すれば、次回期日に他の当事者が出頭してその調停条項案を受諾したとき、相続人全員の間に合意が成立したものとみなされます(家事審判法第21条の2)。
     なお、遺産分割調停が係属している裁判所から嘱託を受けた近隣の家庭裁判所の調査官が、意向を確認するため不出頭者の自宅を訪問することがあります。
 遺産分割調停の呼び出し状が送られてきました。住居地から裁判所は決して遠方ではないのですが、一人異を唱えている相続人と住居が近く、よく顔を合わせるので、できれば調停期日に裁判所に出頭したくはありません。相続財産はもらいたいのですが、相続人の多数意見に従いたいと考えています。調停期日に出頭しないで済ませる方法はないのでしょうか。
  • 独自に弁護士を依頼する方法。
  • 第1回期日には、裁判所に出頭して、その意向を伝えるとともに、対立する相続人間でおおよその協議がまとまれば出頭する旨伝え、事実上、以降の調停期日を欠席する。そして、いよいよ調停が成立すると見込まれるようになった段階で調停期日に出頭し、協議に参加するという方法。
 遺産分割について、特段の希望はなく、調停申立人の希望する分割内容とほぼ一致しています。申立人が委任している弁護士に受任してもらうことはできないのでしょうか。
  • 遺産分割の希望が大筋で一致する場合と言えども、調停成立のための最後の詰めの段階で、同一弁護士に委任した相続人同士の間で利益が相反することがありえます。例えば、被相続人の財産のうち申立人が一部不動産を相続するとなった場合、その不動産をいくらと評価するかという問題は、他の相続人と利害が相反致します。そのような将来の可能性を十分理解したうえで、なお同一の弁護士に委任したいといういことであれば、利害対立が表面化した場合は代理人が辞任することにつき同意を頂いて受任するという方法があります。この場合、弁護士は、裁判所に委任状とともにこの同意を証明する書面も提出します。
  •  この場合、実際に利害が対立するような内容につき協議しなければならないようになれば、代理人は辞任し、本人が出頭しなければならなくなります。
 遺産分割調停の呼び出し状が送られてきたのですが、私としては、被相続人が亡くなるまでその介護をしていた長女に私の相続分を譲りたいと思っています。どうすればよいのでしょうか。
  • 相続分の譲渡という方法があります。
    「相続分の譲渡」とは、相続財産上の共有持分を特定の相続人に譲渡することです。相続財産について共有持分の譲渡がなされると、譲渡した相続人の共有持分は、譲受人として指名された相続人に帰属することになります。
 遺産分割調停の呼び出し状が送られてきたのですが、私としては、亡き夫から相続した財産が十分にあり、老後の心配もないので、相続人間の争いにかかわりたくはありません。どうすればよいのでしょうか。
  • 被相続人の死亡を知ったときより3ヶ月を経過する前であれば、相続放棄をすればよいのですが、遺産分割調停が申立られた時点では、その期間を経過していることが多いでしょう。その場合は、相続分の放棄という方法があります。
  •  「相続分の放棄」とは、相続財産上の共有持分を放棄することです。個々の相続財産について共有持分の放棄がなされると、放棄した相続人の共有持分は他の相続人に、その有する相続分に応じて帰属することになります。
調停委員が熱心に斡旋・説得してくれたのですが、同意しない相続人がいるため、調停は成立しませんでした。どうなるのでしょうか。?
  • 遺産分割調停が不成立となった場合、審判手続きに移行します。 
  • 審判は話し合いではなく、家事審判官(裁判官)が職権で事実の調査および証拠調べを行い、当事者の希望なども考慮のうえで、強制的に遺産を分割するものです。 
  • 遺産分割の態様には、現物分割、換価分割(遺産分割の対象になる相続財産の全部又は一部を売却して、売却代金を分け合う遺産分割の方法)、代償分割(相続人の一部の者が現物を取得し、他の相続人には、その現物を取得した相続人が一定の金銭を支払うという分割方法)、共有分割、用益権設定による分割及びこれらを併用する等の方法があり、裁判官の裁量的判断により決定されることになります。そして、その審判には、強制力があり合意できない場合も、これに従わなければなりません。もちろん、審判に不服があれば、即時抗告をすることはできます。 
  •  なお、審判官は場合により、調停を勧告することがあり、両当事者が、勧告に同意した場合には、調停が成立し、手続は終了します。

○ 特別受益

 祖父は、家制度の権化のような人で、生前、長男である父を家督相続人と考え、相続税対策もあって毎年、不動産の持ち分を父に贈与していました。しかし、76歳のときに交通事故で亡くなってしまいました。当時、祖父は、いまだかくしゃくとしていましたので、遺言書は作成していませんでした。遺言書がない以上、父は、祖父の遺産を兄弟姉妹で等分に分けなければならないということは分かっていたようですが、父が祖父から不動産の生前贈与を受けていたということを知った叔父や叔母からは、それも含めて等分になるように分けて欲しいと言われ、長男として祖父母と同居しその世話をしてきたのにと怒っていたことを覚えています。叔父叔母のいうようにしなければならないのでしょうか。
  • 相続人の具体的相続分を算定するには、相続が開始したときに存在する相続財産の価額にその相続人の相続分を乗ずればよいはずです。しかし、特定の相続人が、被相続人から利益を受けているときは、その利益分を遺産分割の際に計算に入れて修正を行うことが公平といえます。特定の相続人が、被相続人から婚姻、養子縁組のため、もしくは生計の資本として生前贈与や遺贈を受けているとき、その利益を特別受益といいます。相談事例の場合、特別受益に該当します。したがって、その受益分を相続分算定にあたって考慮して計算することになります。この受益分の考慮を「特別受益の持戻し」といいます。
 祖父は、私の子が初孫であったのでたいそう可愛がってくれ、相続対策もあって、〇〇家をいずれ継ぐ者として、毎年、200万円ずつ贈与してくれていました。そのため父が亡くなった時点でその合計額は2000万円にも達していました。これは長男である私が特別受益を受けたということになるのでしょうか。もし私が父より先に亡くなっていた場合は、私の子が祖父から受けた贈与はどうなるのでしょうか。
  •  代襲原因発生前に贈与等がなされても、その時点では代襲者は推定相続人ではありません。したがって、その生前贈与は、他の第三者に対する贈与と同様の性質であるため、特別受益には含まないことになります。
     一方、代襲原因発生後に贈与等がなされた場合、その贈与等を受けた代襲者は、その贈与等を受けた時点で、推定相続人となっているため、生前贈与等は特別受益に該当するとされています。
 祖父は、相続税対策もあって、亡くなる3年前に初孫である私と養子縁組をしていました。私が養子縁組前に贈与を受けた金銭はどうなるのでしょうか。
  •  原則としては、養子縁組をして推定相続人となる前に受けた贈与については特別受益に該当しません。但、贈与が養子縁組をするために、あるいは、養子縁組をすることが調ったことによりなされた場合等、推定相続人となった後の贈与と実質的に同視できる場合には、特別受益に該当します。
 祖父は初孫の私が中学生になったときから、毎年、200万円ずつ贈与してくれていました。そのため祖父が亡くなった時点でその合計額は2000万円にも達していました。なお、私の父は、祖父がなくなる5年前に亡くなっています。祖父の遺産分割に際し、私が受けた特別受益はいくらになるのでしょうか。父が祖父から贈与されていた不動産の持ち分は特別受益になるのでしょうか。
  •  父が生きている時点では、父が推定相続人ですので、贈与を受けた現金については、推定相続人となったとき以降に受け取った1000万円が特別受益になります。父が祖父から贈与されていた不動産持ち分は、代襲相続人である私の特別受益として算入されることになります。 代襲者は、被代襲者の地位を代襲して取得するあらです。
 祖父は、母がよくしてくれたと感謝し、亡くなる2年前に500万円ほど贈与していました。叔父は、私が母を相続するのだからやはり特別受益にあたると主張しています。そうなるのでしょうか。
  •  特別受益の持戻しの対象となるのは、相続人に対する贈与に限られます。 したがって、相続人の親族に対して贈与があったことにより相続人が間接的に利益を得ていたとしても、相続人の親族自身は推定相続人ではありませんから、特別受益に該当しません。事実認定の問題として、真実は推定相続人に対する贈与であるのに名義のみその配偶者としたというような場合は、実質的には相続人に対する贈与があったとみなして特別受益に該当する場合もあります。
 祖父は、叔母が結婚するとき持参金として、叔母名義の2000万円の定期預金を持たしたと聞いています。また叔父に対しても、大学卒業後に海外留学しており、その際、学費はもとより生活費も援助しています。これは特別受益にならないのでしょうか。
  •  特別受益に該当します。その他、居住用の宅地を贈与した場合や、農家において農地を贈与した場合、被相続人の資産収入、社会的地位及び生活状況に照らして、小遣い、慰労金、礼金の範囲を超え、相続分の前渡しと認められる程度の高額な動産、金銭、有価証券等を贈与した場合、被相続人がその名義の借地権を、相続人の1人の名義に書き換えた場合、被相続人の土地上に相続人が建物を建築する際に借地権を設定した場合など特別受益に該当します。
 私の家族は、祖父母の家に同居していたのですが、祖父の遺産分割に際し、叔父から家賃の支払いを免れた利益はありから、同居していた間、賃料相当額の特別受益があると言われました。そうなるのでしょうか。
  •  被相続人の財産は何らの減少もありませんから、特別受益には該当しません。
 祖父は、配偶者が亡くなったとき、保険金受取人を同居している長男に変更していました。そのため父を相続した私と母は、祖父の死亡で多額の保険金を受け取りました。叔母は、この保険金相当額が私の特別受益にあたると言うのですが、そうでしょうか。
  •  生命保険金は、被相続人と保険会社が契約し、被相続人が保険料を支払い、被相続人死亡によって、相続人が受取人として保険金を取得するものです。保険金を支払うのは保険会社であって被相続人ではないため、保険金は被相続人の遺産ではなく、受取人固有の財産となります。しかしながら、一方で、被相続人は、その原資となる金銭支払を負担することによって保険金請求権を受取人に取得させていますので、相続人の1人が保険金受取人に指定されている場合、結果的には、相続人が被相続人の死亡をきっかけとして保険金を取得し、保険金相当額の利益を受けることになります。判例上は、生命保険金を原則として特別受益に該当しないと扱っていますが、相続人間の不公平が到底是認できないほどに著しいと評価すべき特段の事情がある場合には、特別受益に準じて扱うとされています(最高裁平成16年10月29日判決)。
 叔父は、結婚した際、祖父から築30年の居住用不動産の贈与を受けたのですが、子供が増えて狭くなったと言って住宅ローンを組んで改築してしまいました。特別受益にあたると思うのですが、取り壊された建物の評価額はどうなるのでしょうか。
  •  特別受益財産は、相続開始の時点を基準として評価されます (最判昭51.3.18民集30巻2号111頁)。贈与を受けてから後の受贈者の行為によって目的物が滅失したり、目的物の価額が増減した場合は、その目的物が相続開始当時、受贈者の行為の加えられない以前の贈与当時の状態のままで存するものとみなされて、相続開始時の時価で評価されます。
 父が生前に祖父から贈与を受けたアパートがあったのですが、隣家の火災が原因で延焼してしまい、現在は更地となっています。土地はともかくも、アパートも特別受益として評価しなければならないのでしょうか。
  •  贈与の目的物が天災その他の不可抗力によって滅失した場合に、その価額を受贈者の相続分から差し引くのは酷ですから、その者は何も貰わなかったものとして、相続分が計算されます。 不可抗力によって目的物の価額が増減した場合も、相続開始時のその物の時価によって評価されます。

○ 寄与分

 相続人間で遺産分割協議をしていたところ、兄が「寄与分を考慮した遺産分割をすべきだ!」と言い出しました。相続時における寄与分とは、いったい何ですか?
  •  寄与分は、相続人間の実質的公平を図ることを目的として設けられたもので、被相続人の財産の維持や増加に特別な寄与(貢献)をした相続人に対して、本来、承継するべき相続分とは別に、被相続人の遺産の中から、その貢献度を考慮した相当額の財産の取得を認める制度です。寄与分を認めてもらうためには、@共同相続人であること、A被相続人の財産維持・増加があること、B特別の寄与であることが要件となります。
 父が多額の遺産を残して亡くなったのですが、遺言書を作成していませんでした。私達夫婦は、両親と同居して、その介護までしてきましたが、他の兄弟姉妹と同等の相続分しか主張できないのでしょうか?
  •  被相続人の財産の維持、増加に特別の寄与をした事実があれば、寄与分の主張ができます。しかし、寄与分が認められるためには、通常の家族間の相互扶助の域を超えた「特別の」寄与行為が必要で、単に扶養したとか介護したというだけでは足りません。
 それでは、相続時における寄与分には、具体的にどのようなものが認められるのでしょうか?
  •  具体的に類型としては、
    1、無報酬あるいはそれに近い状態で被相続人の事業に従事し、相続財産の維持又は増加に寄与した場合(家業従事型)
    2、他からの収入や自己保有の財産の財産を提供することで、被相続人の財産を増加に、または債務の返済等によって被相続人の財産の維持に寄与した場合(財産給付型)
    3、他からの収入や自己保有の財産の財産を提供して被相続人の生活費を賄い、被相続人の支出を減少させた結果として相続財産に維持に寄与する場合(扶養型)
    4、被相続人の療養看護を行い、医療費や看護費用の支出を避けることによって相続財産の維持に寄与した場合(療養看護型)
    5、被相続人の財産管理等を行い、被相続人が管理費用を免れる等負担を減少させた結果として相続財産の維持に寄与した場合(財産管理型)
    があります。
 常時付き添い看護が必要とされる老人性痴呆の親(被相続人)の看護を、10年間にわたって、子が看護したケースにおいて、付添婦に支払うべき費用の支払を免れるなど、被相続人の財産維持に特別の寄与があったということはできないのでしょうか?
 その看護を実際にしたのは、子の妻であったという場合でも、子は妻の看護を寄与分として主張できるのでしょうか?
  •  子が、親の面倒をみるのは当然の行為であって、単なる病人の看護のみでは特別の寄与には当たりません。しかし、付き添い看護を常に必要とするような場合に、相続人が看護にあたることで看護費用の支払を免れるなどの事実があれば、被相続人の財産維持に貢献したとして、看護費用相当額の寄与分は認められてしかるべきでしょう。
     また、被相続人には、不動産があるものの、現金や預金といった流動資産がなかったために、相続人が、被相続人の入院費用や治療費等を負担したという場合は、被相続人の財産維持に貢献したとして寄与分が認められてしかるべきです。
     子の妻が被相続人の看護にあたったという場合も、この妻の寄与を相続人である夫の寄与として主張することは許されます。
 父は、祖父の財産維持に貢献したのですが、祖父よりも先に亡くなりました。孫である私は、父の寄与分を主張することはできるのでしょうか?
  •  孫が被相続人の子を代襲相続するときに、すでに亡くなっている子の寄与を孫の寄与として主張することができます。
    もちろん、子として当然にすべき程度のことでは寄与分の主張はできません。
 被相続人である父から事業の承継者になって欲しいと請われて、上場企業のサラリーマンを辞めて以来、20年、父のもとでその片腕となって事業を手伝い、順調に事業は拡大していきました。
 その父が突然亡くなり、遺産分割の協議をしなければならないのですが、寄与分の主張ができるでしょうか。私の給与は、サラリーマン時代と比較しても決して多くはありませんでした。
  •  被相続人の事業に関して労務を提供した場合、提供した労務にある程度見合った賃金や報酬等の対価が支払われたときは、寄与分と認めることはできないが、支払われた賃金や報酬等が提供した労務の対価として到底十分でないときは、報いられていない残余の部分については寄与分と認められる余地があると解される。(大阪高決・平成2年9月19日) 

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