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 ○労働事件Q&A


○懲戒処分

 社員が業務時間外に飲酒運転をして、検問にひっかかり、酒気帯び(呼気検査で一定以上のアルコールが検出された場合)もしくは酒酔い運転(検知値に関係なく、その言動から明らかに酔っていると判断される場合)で刑事罰(罰金を含む)で処分された、ということが会社に発覚した場合、会社としてその社員を懲戒処分に付することは可能か。?
  •  会社は、就業規則に懲戒規定がないと従業員に対し、懲戒処分ができません。しかも、その懲戒規定でもって、どのようなときに懲戒処分を行うのかという事由(機密漏洩・横領・経歴詐称等)を明確にしておかないといけません。また、この事由に対する懲戒処分の種類(けん責・出勤停止・懲戒解雇等)についての規定も必要です。 労働基準法第89条第9号も、「制裁の定めをする場合においては、その種類および程度に関する事項」を就業規則で定めなければならないとしています。かように、就業規則に懲戒規定を設け、懲戒事由と懲戒処分の定めをうることでもって、従業員との間で、「そのような行為をしたときは懲戒処分を受けることも甘受する」との契約をしたことになるわけです。
  •  それでは、職務時間外の飲酒運転が懲戒処分事由に該当するのでしょうか。多くの会社では、飲酒運転そのものを懲戒事由とされていないことでしょう。多くの企業では、会社の名誉、体面、信用の毀損を懲戒事由として掲げたり(「不名誉な行為をして会社の体面を汚したとき」)、犯罪行為一般を懲戒事由として掲げています(「犯罪行為を犯したとき」)。飲酒運転は、「不名誉な行為をして会社の体面を汚したとき」、あるいは、「犯罪行為を犯したとき」に該当するとするしかないでしょうが、多少、無理があります。労働契約は、企業がその事業活動を円滑に遂行するに必要なかぎりでの規律と秩序を根拠づけるにすぎず、労働者の私生活に対する使用者の一般的支配までを生ぜしめるものではありません。したがって、従業員の私生活上の言動は、事業活動に直接関連を有するもの及び企業の社会的評価の毀損をもたらすもののみが企業秩序維持のための懲戒の対象となりうるにすぎません。企業秩序の維持と無関係な単なる私生活上の非行は懲戒処分の対象とできないと考えるべきでしょう。
  •  以上のような次第ですので、飲酒運転については、タクシー会社や運送会社などの運転手が飲酒運転で業務上過失致傷となるよな重大な交通事故を起こした場合は、それが私生活上のものであっても、会社の社会的評価を毀損することになるので、懲戒処分は可能でしょう。しかし、その場合も、処分の程度につき慎重に判断する必要があります。
     なお、自治体や警察消防等では、飲酒運転なども懲戒事由とし、その処分についてまで定めをしています。懲戒処分をめぐっての紛争を防止するためにも見習うべきでしょう。
 勤務時間中にインターネットでネット証券会社のホームページにアクセスさせて、株式の売買の指示をしている社員がいる(あるいは、アダルトサイト、出会い系サイトを見ている社員がいる。)。懲戒処分を行うことができるか。どの程度の処分が妥当か。
 社内では禁煙となっているため、喫煙のために頻繁に席を離れる社員は問題がないのか。
 メールの私的利用はどうか?
  •  勤務時間中に、私的な動機でインターネットにアクセスすることは、職務専念義務違反として、これに該当する懲戒事由が就業規則に規定されていれば、懲戒処分の対象となります。
  • どの程度の処分が妥当か。
     勤務時間中に職場を離脱して職務を怠り、業務の運営に支障を生じさせた場合は、職務専念義務に違反として戒告、それが業務運営を妨げるような状況に至れば減給という程度が一つの基準となるでしょう。
  •  電子メールに関しては、電話と同じように考えればよいでしょう。現代のコミュニケーションの意義や私用か業務上かの区別を問わずに受信するという電子メールの特性もあり、私用メールを一律に禁止するということは妥当ではないでしょう。電話の場合の取扱と同様、社会通念上相当といえる合理的な利用の範囲内である限り、職務怠慢とは言えないでしょう。
  • アクセスログを採取することは、プライバシー侵害の問題があるが、会社の設備である以上、その使用に関する記録を会社が採取することは当然であり、採取およびその適切な使用は適法。
  • 使用者としては、社員が適切にインターネットを使用するようになるよう、まずはインターネット利用規定を作成し周知徹底させます。このとき、アクセスログなどが会社のサーバーに残ることなども知らしめておいたほうがよいでしょう。おそらくそれでもインターネットの不適切な利用は生じるでしょうから、その後に、会社が把握した不適切な利用実例として匿名で事案を紹介して、適切な利用に関する啓発活動を積み重ねるべきです。それにもかかわらず、悪質な利用実例が見いだされた場合は、個別に口頭で注意し、それでも繰り返した場合に初めて戒告処分をとるべきでしょう。
 給与の減少で、ローン返済のためにやむにやまれず、夜間にアルバイトをしている社員がいる。就業規則では、「会社の許可なく他人に雇い入れられること」を禁止し、その違反を懲戒事由としている。
 この場合、懲戒処分の対象とすることができるか?
  •  二重就職も基本的には使用者の労働契約上の権限の及びえない労働者の私生活上の行為ですので、会社の職場秩序に影響せず、かつ会社に対する労務の提供に格別の支障を生じさせない程度・態様の二重就職は禁止の違反とはいえない。
  •   しかし、会社の職場秩序に影響を及ぼす場合、会社に対する労務の提供に支障を生じる場合は、兼職(二重就職)許可制の違反に該当し、懲戒処分の対象となります。すなわち、労務提供に支障をきたす程度の長時間の二重就職や、競業会社への就職などは、禁止に該当する二重就職とされています。

○労災事故

 労災事故が発生し、従業員が被災しました。障害補償給付等の労災手続も終了しましたが、それでも被災者から会社に損害賠償請求をしてきました。このようなことができるのですか?
  •  労働者に発生した損害が, 使用者の故意または過失によって発生したのであれば, 使用者に民法上の不法行為責任, あるいは債務不履行責任が発生します。
     労災保険は, 基本的には, 労働基準法 75 条以下が定める使用者の補償責任を, 保険化したもので、使用者の故意や過失を問わず, 業務災害による損害の一部を現物ないし定額で補償する責任です。労災保険法の給付が 100%行われたとしても, 入院雑費, 被災者本人や遺族の精神的損害等の労災保険がカバーしていない部分の賠償責任は残ります。
     したがって, 労災保険法による給付が先行すれば, 実際に支給された, あるいは支給が確実な保険給付の範囲で, 使用者は民法上の損害賠償責任を免れます。この場合に使用者が支払うべき賠償額は, 労働者側の帰責割合や過失相殺を経て算定される賠償額から, 労災保険法による給付額を控除した額となります。
     ただし, 労働福祉事業による 「特別支給金」 は控除対象となりません。
  •  労働者が業務上負傷し、または疾病にかかった場合、使用者はその過失の有無を問わず、労働基準法上の災害補償責任を負いますが、労災保険が支給される場合は、補償責任を免れ、支払われた価額の範囲で民事上の損害賠償の責任を免れることとされています(労基法84条)。
     つまり、労災保険制度があるからといって企業責任が全面的に免除されるわけではなく、労災保険給付の価額の限度を超える損害については、使用者は民法上の損害賠償の責を免れることはできません。
     労災保険は、労働災害によって生じた損害のうち、労・使の過失の有無を問わず、一定の給付を簡易迅速に補償する国の制度であり、民法上の損害賠償の範囲を網羅してはいないのです。その1つが入・通院期間および後遺症等の精神的苦痛による損害である慰謝料。これに対応する労災保険給付はありません。また休業補償は労災保険給付の対象となっていますが、平均賃金の60パーセントしか支給されません。実際には、休業の場合、これへの上乗せとして20パーセントの休業特別支給金がつきます。判例は、これらの特別支給金について、労働福祉事業の一環であり、損害の填補の性質を有するのもではないという理由で、民事損害賠償における損害額から控除することはできないとしています(最判平8・2・23)。障害補償給付についても定額化されているため、特殊事情が斟酌されない可能性があります。
  •  仮に使用者の賠償が労災保険給付に先行すると, 当該賠償対象にかかる労災保険給付の一部が停止されますが (労災保険法 64 条2項), この場合も使用者が労災保険の給付を代位取得できるわけではありません。したがって, 労災保険の給付が先行したほうが使用者にとっては有利なのですが, 使用者は労災保険から給付が 「あるはず」 だからといって損害賠償責任を否定されませんし, 労災保険の先行受給を強制することもできません。
     ただし, 損害賠償請求権を有する者が, 労災認定を経て障害 (補償) 年金, 遺族 (補償) 年金の前払い一時金を請求できる状態になった場合に限って, 前払い一時金の最高限度額が支給されるまで, 一定額の支払いを拒むことが認められています。
     労災事故であることに異議がないのであれば, 被災者に対し, 労災保険から確実・迅速な受給が受けられ, 年金も受給できる場合がある等のメリットと, 保険給付を受けることによるデメリットはないこと等を説明し, 申請への協力を約すなどして, 早期の申請をお願いしたほうがよいでしょう。
 下請企業の従業員が労災事故にあい、安全配慮義務違反を理由に元請企業である当社に損害賠償を求めています。当社に責任はあるのでしょうか?
  • 下請企業の従業員が労災事故にあった場合、原則として、下請企業に労災事故発生の責任があります。従って、この場合は、元請企業に労災事故の責任を追及される可能性はありません。
  •  しかし、建築や土木の請負の場合、請負契約に基づき、下請企業の労働者が、元請企業の指定した場所に配置され、元請企業の供給する設備、器具等を用い、元請企業の指示のもとに元請企業が直接雇用する労働者と同様の労務の提供をする形をとっている場合ば多く見られます。このような場合は、元請企業は、下請企業の労働者に対する労働災害を予見し、これらを回避するための措置をとることが可能であり、信義則上、安全配慮義務があると考えられます。
  •  従って、下請企業の労働者が、元請企業の指定した場所に配置され、元請企業の供給する設備、器具等を用い、元請企業の指示のもとに元請企業が直接雇用する労働者と同様の労務の提供をする形をとっていれば、元請企業にも安全配慮義務違反を理由とする損害賠償に応ずる義務があると考えられます。 

○従業員の破産

 従業員の給与が差し押さえられたため、その従業員に事情を質したところ、破産の申立をするという。給与の支払いが面倒でもあるし、この際、この従業員を解雇したい。破産したことを理由に解雇をすることはできますか?
  • 破産者は、破産法によって、破産宣告の効果として、資産に関する説明をする義務を課せられ、裁判所の許可がなければ、転居したり、長期の旅行ができないといった制限や破産者宛の郵便物は、すべてが破産管財人に配達され、開披されるという意味での通信の秘密の制限を受けます。しかし、破産管財人等に対する説明のために仕事を休まなければならないとしても、個人破産の場合は、特段の事情がないかぎり、説明のために二、三回半日休暇を取れば足りますし、その他の種々の制限も社員の職務の遂行に支障を来すようなものはありません。社員が破産をしたからと言って、破産者の勤務に支障が生じることはありませんので、破産したことを理由に解雇をすることはできません。
  •  また社員の私生活上の言動は、事業活動に直接関連を有するもの及び企業の社会的評価の毀損をもたらすもののみが企業秩序維持のための懲戒の対象となりうるにすぎません。しかるに、一社員が破産したからと言って、その勤務先の会社の社会的評価を毀損することはありえませんので、破産したことを理由に懲戒処分に付することもできません
 会社が破産した社員に対して貸付金がある場合、どうすればよいか?
  •  それが既になした労働についての給与の前払いであれば、それは給与の一部を弁済期を繰り上げて支払ったということですから、破産債権にはなりません。したがってその月の本来の給与の支払日に、前払い分を差し引いた額を給与として支払うことで問題はありません。
  •  しかし、給与の前払いではなく、毎月の給与から一定額を返済するとの約定で、金員を社員に貸付けていた場合、その貸金債権は破産債権となります。したがって、破産宣告後、免責決定が確定すれば、その返済を法律上強制できない債権となります。しかし、実際上は、破産者がその会社を退職しない限り、破産宣告後も会社に対して任意に返済を続けていることが多いと思われます。破産者は、免責決定が確定するまでは、借金を返済すべき法律上の義務があり、また破産法によって、破産宣告後に取得した財産や給与は自由に処分できるとされていますので、自らの自由な意思で返済しているのであれば、法律上の問題はありません。ただ会社に対する返済は、一部債権者に対する偏った返済、偏頗(へんぱ)弁済ということになりますので、破産者の行為としては、他の債権者との公平という観点から、あまり好ましい行為ではありません。
  •  なおその貸付金が退職金を担保にするものである場合、社員が破産したからといって、解雇事由にはなりませんので、退職金の支払いの問題は生じません。 
 退職金債権との相殺の可否?
  • 「@ 使用者が労働者の同意を得て労働者の退職金債権に対してする相殺は、右同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)二四条一項本文に違反しない。A 甲会社の従業員乙が、銀行等から住宅資金の貸付けを受けるに当たり、退職時には乙の退職金等により融資残債務を一括返済し、甲会社に対しその返済手続を委任する等の約定をし、甲会社が、乙の同意の下に、右委任に基づく返済費用前払請求権をもって乙の有する退職金債権等と相殺した場合において、右返済に関する手続を乙が自発的に依頼しており、右貸付けが低利かつ相当長期の分割弁済の約定の下にされたものであって、その利子の一部を甲会社が負担する措置が執られるなど判示の事情があるときは、右相殺は、乙の自由な意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在したものとして、有効と解すべきである。」最高一小判平成二・一一・二六[昭六三(オ)四]

○人事

 まじめだが思いこみの激しい社員を同期に遅れて係長にしたが、本人の意気込みに反して部下の反発を買い、職場の雰囲気まで悪くなっている。平社員に降格させたいが、本人に打診したところ、頑なに拒否をしている。人事権の行使として平社員に降格することができるか?
  •  就業規則に降格に関する規定がありますか。部長を部長代理に下げることは、その動機・事由が著しく妥当性を欠き、人事権の濫用だと評価されるような場合はともかくも、普通は使用者の人事権の裁量の範囲内のことであり、法的に問題とされることはないでしょう。しかし、それに伴い、賃金が下がる場合は、労働条件の一方的な不利益変更となるので、就業規則等に降格・降給の規定がなければ、従業員の同意なしにはできません。古い就業規則においては、降格・降給はいわゆる「想定外」であって、定めがない場合が多いと思われます。今後、新たに就業規則を見直すことがあれば、必ず、降格・降給規定を設けるべきでしょう。
  •  根拠となる就業規則の規定がある場合でも、降格、減給が権利の濫用にならないことが求められます。
     従業員の職務遂行能力に応じた処遇を行うために、職務遂行能力に応じた資格や等級が体系的に定められ(職務資格制度)、資格や等級に応じて賃金額(基本給)が定められる制度があります(職能給制度)。このような制度の下での職務遂行能力を見直しにより、資格や等級を引き下げられることがあります。こうした場合は、根拠となる就業規則に降格、減給についての規定が置かれていることでしょう。その場合は、使用者の裁量で、降格・減給をすることが可能となりますが、降格、減給の原因となった事由と降格・減給の程度が相当性を欠くときは、人事権の濫用として降格・減給処分が無効となることがあります。
 配転・出向について、何か制約があれば教えてください。
  •   配転とは、同一企業内での従業員の配置転換を言います。
    配転命令は、使用者の指揮命令権のひとつですから、労働者がこれに従わないときは、懲戒の対象となります。
    ただし、次にような事情があるときは、労働者は、配転命令があってもこれに従う必要はないとされています。
    入社の際、あるいはその後の事情から、労働契約の内容として、労働者の職種が限定されていると考えられるとき。
    労働契約上、労働者の勤務場所が限定されていると考えられる場合。
    業務上の必要性がないとき、または業務上の必要性があるときでも、他の不当な動機・目的をもって配転命令が出されたとき、もしくは労働者に対し、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき。
  • 次に出向ですが、出向とは、労働者が、自分が雇用されている会社に在籍したまま、別の会社で就労することを言います。
    出向の場合、労働者が労務を提供する相手が変更されるので、配転と違って、就業規則・労働協約などに定めがある、採用の際に同意をしている、などの事情がない限り、出向命令は認められないとされています。
    また、上記の定め、同意がある場合でも、配転の場合と同様、出向命令が権利の濫用となる場合は、労働者は出向命令に従う必要はないとされています。
    それが既になした労働についての給与の前払いであれば、それは給与の一部を弁済期を繰り上げて支払ったということですから、破産債権にはなりません。したがってその月の本来の給与の支払日に、前払い分を差し引いた額を給与として支払うことで問題はありません。

○セクハラ

 女性従業員が課長からセクハラをされたとして訴えでてきた場合はどうすべきか。
  •  セクハラ問題が生じた場合には、セクハラを当事者間の個人的な問題として放置するのではなく、公平かつ慎重な事実調査を行い、セクハラが存在した場合には、加害者に対する懲戒処分をも含めて断固たる措置をとる必要があります。
  •  使用者は雇用契約上、職場環境調整義務、すなわち、ここではセクハラのない労働環境を保障する義務をおっています。したがって、その義務違反は債務不履行となり、損害賠償責任を問われる。
  •  また、女子社員が、直接の上司からまったく身に覚えのない異性関係について言い触らされ、退職を余儀なくさせられたという事件で、その上司と会社に慰謝料を払うよう命じた判例があります。この判例は、上司のこのような行為が職場環境の悪化を招いたこと、さらに加害者の上司である専務も、職場環境を調整するよう配慮することを怠ったと指摘し、会社側にも責任があるとしています。
     かよういにセクハラは、会社の対応によっては、会社に対する損害賠償請求まで可能となって金銭的な負担となりますが、そればかりではなく、企業イメージのダウンにもなりかねません。
  •  さらに、これを放置すると職場秩序の乱れ、社員のモラルダウン、女子社員の非定着などにより、円滑な日常業務に支障が出るなど、会社全体へ好ましくない影響を及ぼすことも明白です。
     会社経営者としては、セクハラのない労働環境を整えるため、セクハラについての管理職(人事・労務)の勉強会を開いたり、社員教育をするとともに、被害者となった社員が泣き寝入りすることのないよう訴え出やすい制度を工夫する必要があります 

○休職制度

 従業員が有給休暇を取得してスキーに行って大怪我をし、しばらく仕事を休みたいと申し出てきた。同人の有給休暇は20日残っている。有給休暇を経過してもなお仕事に復帰できない場合、解雇してもよいか。

  • 民法の契約原則では、労働契約の目的を達成できず契約を継続しがたいものとして、使用者は、契約解除ができます(普通解雇)。しかし、就業規則や労働協約によって病気休職制度(所定の休職期間内に復職できれば解雇を猶予するが、休職期間満了までに復職できなければ解雇あるいは自動的に労働契約が終了するという制度)を設けてる場合は解雇はできません。
     もちろん、この間の給与は支払う必要がありませんが、従業員は、休職期間中は健康保険の傷病手当金(標準報酬月額の6割・1年6か月)や共済組合から給付金が支給されます。
 休職期間満了後、その従業員は傷病が治癒していないとして休業を希望しています。当社の就業規則では、休職期間満了時に傷病が治癒せず「休職事由が消滅しないときは退職」となっています。このような自動退職規定は法律上問題ありませんか。
  • 一定の日に自動的に終了することが就業規則に明示され、それと異なった例外的な運用がなされていないかぎり、問題となることはありません。休職期間満了までに治癒しなければ、休職事由が消滅しないこととなり、当然に退職したことになります。定年と同じように終期の到来による労働契約の終了と考えるのです。
 休職期間終了後、その従業員が復帰を申し出てきました。後遺障害があり、元の職場で働けそうにはありません。解雇できるのでしょうか。
  •   労働者の状況(身体の障害の程度等)からして、従来の労務を十分に遂行することができないということであれば、元の職場に復帰することを拒否することができます。しかし、会社において、就労可能な部署があり、本人がその部署での仕事を希望している場合は、配属部署のやりくりが可能であれば就労を認めなければらないとされています(片山組事件 東京高裁 平成7.3.16、最高裁第一小法廷 平成10.4.9 労判736号15ページ、差戻審 東京高裁 平成11.4.27、差戻審上告審 最高裁 平成12.6.27)。
     以上、復職が認められない場合は、休職期間の満了によって、解雇又は自動退職となります。
 うつ病を理由に休職制度を利用していた従業員が、休職期間が終了した時点で、元の職場に復帰したものの、10日ほど出社しただけで、再び休職を申し出てきた。この場合休職を認めなければならないのか。
  •  同じ病気での休職は、それが休職制度の濫用と認められるような場合は認めないことが出来ます。復帰期間が長い場合、一旦は治癒していたが、出社後、職場でのハラスメントがあって、再発したという場合は、休職制度の濫用といえるかどうか微妙です。そもそも職場復帰の申し出があった時点で、医師の診断書の提出を求めるべきであったということができます
 従業員が逮捕され、警察に勾留されている。解雇することはできないのか。本人が弁護士を通じて有給休暇の申請をした場合、認めなければならないのか。
  •  逮捕されると、警察による留置とその後の勾留を含めて最大で23日間拘束されます。この期間については、欠勤の取り扱い、もしくは、当該社員の申し出があれば年次有給休暇の取り扱いとします。
  •  逮捕・勾留の段階では、罪状明白とはいえず、 本人も否認しているケースでは即時解雇はできません。
  •  また、勾留期間を無断欠勤の取り扱いとし、無断欠勤の一定期間継続を事由とする解雇を行うことも不適切です。
  •  勾留期間が満了して起訴猶予とか、嫌疑不十分で釈放された場合はもとより、起訴された場合でも、釈放された場合は起訴休職は命じることができません。解雇も難しいでしょう。
 逮捕・勾留されていた従業員が起訴された。解雇することはできないのか。本人が弁護士を通じて有給休暇の申請をした場合、認めなければならないのか。
  •  起訴されたことだけでは休職を命じることはできません。公判の出頭による欠勤があるといえども、それは有給休暇の取得等で十分対応できる範囲ですから労務の提供は可能です。したがって、起訴された事実のみをもって起訴休職を命じても無効とされます。
  • 起訴後も勾留されていたが保釈が認められた場合も就労可能となります。その場合でも犯罪の内容によっては起訴休職を命じることができます
  • 起訴後も勾留されていて、保釈も認められないという場合、長期間の勾留により、 労務の不提供が一定期間継続することが明らかですから、 一般的に就業規則の定めに従って起訴休職の取り扱いとします。
  • 起訴休職とは、労働者がなんらかの犯罪の嫌疑を受けて起訴された場合に、労働者を休職させる制度のことをいいます。刑事裁判上、有罪確定までは「無罪の推定」が働きますが、起訴されたという事実は、一定の証拠があってなされた検察の判断ですから、社会的には事実であろうとされます。そのため職務内容や公訴事実の内容によっては、その労働者を就労させた場合に、職場秩序が乱されたり、企業の社会的信用が害され、また、当該労働者の労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に支障が生じるおそれがありますので、起訴休職という制度が認められている次第です。
 従業員が刑事事件で起訴された。休職を命じることはできるのでしょうか。
  •  起訴の事実だけでは、当然には起訴休職は認められません。起訴により、就労が直ちに不可能となるわけではなく、さらに、刑事裁判上、有罪確定までは「無罪の推定」が働くことから、起訴休職が有効とされるためには、起訴の事実に加えて、以下の要件を要すると考えられています。
    @ 起訴により企業の社会的信用が失墜し、職場秩序に支障が生じるおそれがあるか。
    A また労働者の勾留や公判期日への出廷のために、労務の継続的提供に支障が生じるおそれがある。
    B 懲戒処分との均衡がとれているか。起訴休職は、なんらかの非行を対象とする処分である点で懲戒処分に近似する措置となります。そこで、懲戒処分との間で著しい不均衡が生じないことも重要です。
  •  以上の有効要件は、起訴休職の継続中も満たしている必要があります。起訴休職の当初は有効であったとしても、休職期間の途中で要件を満たさなくなった場合には、使用者は、休職事由が終了したものとして復職措置をとらなくてはなりません。

 使用者は、起訴休職中の賃金を支払う必要があるのでしょうか。
  •  一般的な「休職」期間中の賃金については、通常、これが労働者側の事由に基づく休職の場合、労働者の帰責事由による労務の履行不能であることから、賃金請求権は発生しません。この点、使用者が一方的に休職命令を発する場合であっても同様です。したがって、前述の観点から有効な起訴休職が適用された場合、労働者に帰責事由があるといえるので、就業規則に賃金を支払う旨の定めがない限り、使用者は、起訴休職中の賃金を支払う必要はありません。
     なお、起訴休職が有効である場合、後に無罪判決が確定したとしても、起訴休職そのものが遡及的に違法となるわけではなく、使用者は遡って賃金を支払う義務も生じないと考えられます。

○解雇


 昨年、中途採用した従業員の中に無断欠席が多い上、無駄話が多くて、仕事ぶりが芳しくない従業員がいます。解雇しても問題ないでしょうか。
  •  就業規則に解雇事由のひとつとして労働者の勤務成績不良が定められている場合は解雇することができます。もっとも、無断欠勤や勤務態度などは程度問題ですので、解雇もやむなしと判断される程度の悪質なものでなければ、解雇権の濫用となり、解雇が認められないことがあります。したがって、無断欠勤や勤務態度の不良は、その都度、注意をすることはもちろんですが、訓告や戒告、あるいは始末書提出といった懲戒処分をして、なおあらたまらなかった場合にはじめて解雇しうると考えた方が無難です。 
  •  なお、この場合、、解雇予告手当ても支払わなければなりませんし、退職金規程があり、退職金支給の条件を充たしていれば、支払わなければなりません。
 ここ数年の円高で赤字が続いている。工場の海外移転に伴い国内の従業員を解雇したい。可能でしょうか。?
  • 経営不振の企業が、雇用調整のために解雇をするためには、次の4つの条件が必要とされています。
     企業の運営上、人員整理をすることがやむを得ないこと。
     配転、出向、一時帰休、希望退職者の募集などの方法を試みたこと。
     被解雇者の選定が合理性のあること。
     労働組合または労働者に対して、整理解雇の必要性と、その時期・規模・方法について説明、協議を誠実に行ったこと。

○就業規則

 就業規則を変更するについて、何か制約があれば教えてください。
  •   就業規則を労働者の利益に変更する場合は問題がないのですが、不利益に変更する場合には、不利益に変更する合理性がなければ、その就業規則の変更は労働者を拘束しないとされています。
     また、合理性があるかどうかの判断は、不利益変更の必要性と、変更によって労働者が被る不利益とを比較し、変更の社会的相当性、労働組合との交渉経過などを考慮して行うとされています。

○従業員の破産

 会社が破産した社員に対して貸付金がある場合、どうすればよいか?
  •  それが既になした労働についての給与の前払いであれば、それは給与の一部を弁済期を繰り上げて支払ったということですから、破産債権にはなりません。したがってその月の本来の給与の支払日に、前払い分を差し引いた額を給与として支払うことで問題はありません。

○残業代金の請求

 私の会社の従業員は、私がとくに残業を命じなくても、自主的に残業をしています。このような場合でも、残業代を支払わなければならないのですか。
  •   残業をするかどうかが従業員の判断に任されている場合、あるいは、従業員が残業しているのを使用者が黙認している場合、残業を命じる黙示の業務命令があったものとして、使用者は、割増賃金を含む賃金の支払をしなければなりません。
    これに対し、使用者が、残業をしないで帰宅するよう命じているのに、従業員がそれを無視して残業しているというような場合は、労働時間に入りませんし、賃金を支払う必要もないと考えられます。

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