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○亡曾祖母名義の土地の名義の時効取得


  相談者の父親は10年前に亡くなり、相談者は、亡父の住んでいた居宅を相続していた。昨年、母親も亡くなったので、その土地建物を売却しようとして登記簿謄本を取り寄せたところ、建物は父親名義となっていたが、土地は父親の祖母の名義であった。相続関係を調べるために戸籍謄本を取り寄せたところ、曾祖母は江戸時代、安政年間に生まれた人で、大正10年に亡くなっていることが判明した。土地の登記名義を相談者に移転するためには、曾祖母から順々に相続登記をしなければならないということで、相続人を調査したが、祖父の兄弟が10人もいたこともあり、到底、調べられなかった。また、その土地の相続人全員から、相続権を放棄する旨の書面に実印を押して貰うとともに、その印鑑証明書を揃えれば相続登記ができるということを教えられたが、分かった範囲でも相続人の中には、すでに親戚付き合いのない人が多数あり、相続人全員から相続放棄書への実印の押捺とその印鑑証明書を貰うことは到底可能とは思えない。何か良い方法はないでしょうかという相談を受けたことがありました。
• その前にもよく似た事案を解決したことがありました。依頼者は、20年以上前、ある人から「登記名義を移転することはできないが、私の所有物に間違いはない。私も『登記名義を移転することができない』と言われて買ったが、買ってから今日まで十数年もなるも、誰からも文句を言われたことはない」と言う話を信じて、10名ほどの共有名義の土地(畑地)を買った。それからすでに20年くらいは経っているが、子供は農業を継ぐ気はないという。このままでは家を建てることもできないし、売ることもできない。何とかならないか、という事案でした。このときは登記名義人の相続人30名余りに対して、時効取得を理由とする所有権移転登記請求訴訟を提起して勝訴し、判決でもって登記名義を相談者に移転させたことがありました。
• 他人の土地であって、そのことを知っていても、自分の所有する土地として、20年の間、平穏かつ公然にその土地を自分で占有していれば、その占有者がその所有権を時効により取得します。もしその土地の利用(占有)を始めたとき、自分がその土地の所有者だと思い、そう思うことに無理のない事情があれば(無過失であれば)10年間、平穏かつ公然にその土地を自分で占有していれば時効取得します。
• もっとも、本件は、他人名義の土地を買ったのではなく、曾祖母の土地を単独相続したものと信じていた事案ですので、前述した事案とは少し異なっています。登記上の名義が曾祖母のままになっているということは、現在の法律上の所有者は曾祖母の相続人全員であり、単に財産分けが済んでいないだけの状況です。したがって、相続人全員で財産分けの合意ができ、全員の印鑑が揃えば、この土地を相談者の父に相続登記ができます。しかし、本件のように70年以上も前に亡くなった人の相続財産の場合、相続人が多人数となり、様々な事情から、相続人全員分の合意と印鑑証明書が揃うことは期待できません。また、協力していただけるとしても、相続人に市役所に行って印鑑証明書を発行してもらうなど少なからず負担をかけることになります。そこで、時効取得を理由として移転登記を求める訴訟を提起することにしました。
• 相続財産については、それが相続財産であると認識しておれば、自主占有の意思(自分のものと思って占有していること)と他主占有の意思(他人のものと思って占有していること)の両方の意思があると考えられますので、相続財産の時効取得が認められるかどうかは争いがありますが、この点に関しては最高裁判例も、「共同相続人の1人が、単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有し、その管理・使用を専行し、その収益を独占し、公租公課も自分の名で負担・納付し、これについて他の相続人が何ら関心をもたず、異議を述べなかった場合には、相続開始のときから自分の所有の意思で占有していた」として、時効取得を認めていますので、本件でも時効取得を主張して判決得て、その判決で登記名義を相談者に移転すればよいと考え、受任しました。もっとも、時効取得には自分が所有者だと思って占有していることが必要なところ、相続財産につき時効取得を主張する場合は、所有意思の認定は厳しいようで、単独相続したと思い込んだ事情につき、詳細に事情を聴取し、資料の収集に努めました。
• そして、その裁判は、曾祖母の夫の財産を家督相続している親族1名が争って、数回の裁判期日を経ましたが(最終は和解しました。)、他の80名ほどの相続人は、訴訟提起前に事情を説明した書面を送付していた関係もあり、裁判には欠席されるか、出席されても事実関係は争われなかったので、1回で終了しました。
• なお、被告とされた本件土地の相続人は、全く心当たりのないことで裁判所から呼び出し状を受け取ることになりますので、驚かれるとともに、「何で被告にされるんや」と腹を立てられることがありますので、訴訟提起前になぜ裁判の相手方とせざるを得なかったのか、裁判所からの呼び出し期日に欠席したらどうなるのか等を懇切丁寧に説明をして、理解を得るとともに、「もしご質問等があれば代理人弁護士宛にお電話を下さい」と書き添えておくことが、訴訟の紛糾を防止するためにも必要です。
• 本事案で難しかったのは、戸籍の調査でした。相続人がネズミ算式に増えていくため、訴訟提起時点で被告とした相続人は50名を越えました。しかも、訴訟提起後、亡くなっているのにその届け出がなされていなかったため死亡者を被告としていたことが判明したり、戸籍謄本に誤りがあったりで、最終的に被告は80名を越えました。土地の名義人は、大正10年に亡くなっていますので、旧民法の適用のある事案でしたが、戸主ではなかったため家督相続されず(戸主の財産であれば家督相続人が相続することになって、これほどまで相続人は増えなかったことでしょう。)、このように多人数を相手とすることになったわけです(旧民法下での相続は「遺産相続」と「家督相続」の二つに分かれていました。「遺産相続」は戸主以外の個人が有していた財産の相続で、分配の方法も原則的には平等に分配をなされました。そのため相続人が増えたわけです。)。
• 最後に、税金には注意をして下さい。財産分けによる相続での取得ならその相続時点の相続税ですし、たとえ相続税がかかるはずだったとしても、時効消滅しています。ところが「時効取得」となれば、相続税の対象にはなりませんが、時効取得時に一時所得として所得税が課税されます。
 


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