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痴漢犯人とされた方の弁護人となり、不起訴処分を得ました。



 痴漢犯人として現行犯逮捕されたものの、否認し続けたことから勾留請求された時点で、父親からの依頼でした。
 接見すべく警察に連絡すると、勾留請求のため朝から裁判所に行っているとのことでした。午後から何度か警察に電話を入れて警察署に帰っているのかを確認したのですが、午後6時頃になって、勾留決定が出ず釈放されたということが分かりました。近時、痴漢冤罪がみられるようになり、裁判所も勾留決定に慎重になっているのでしょう。
 そして、その翌日、被疑者本人とその家族と打ち合わせをしまいした。被疑者の父親は、刑事から言われたのか、さっさと認めて示談をして被害届を取り下げてもらうよう交渉して欲しいようでしたが、本人は痴漢行為をしていないと言います。
 その際、本人から聴取した経緯は以下のようなものでした。

 被疑者は、午後11時30分頃、地下鉄御堂筋線の淀屋橋駅から千里中央行きの電車に乗車した。梅田駅で降車客が多数あり、電車はさほど混み合っていなかった。梅田駅以降は、ドアとその戸袋にもたれていた。東三国駅を電車が出た時点で、被疑者の前に横向きで本を読んでいた女性が被疑者の鞄を持っていた左手手首を掴み、「さわったやろ」と言ってきた。被疑者は、被害者の体を触っていたわけではなく、全く身に覚えのないことであったので、次の駅で降りて話をしようということになり、江坂駅で降車したところ、丁度、その場に駅員がいたので、そのまま駅長室に行くことになった。
 なお、被疑者は、酒は飲めない体質であり、また痴漢等の前科前歴はないとのことでした。

 否認事件の弁護を引き受けたとき、弁護士としても、本当にやっていないのか多少の疑いを持っているものです。本件でもそうでしたが、その後、被疑者の取り調べの際の刑事の話の断片から、被害者は、被疑者が中津駅から東三国駅までの間、約6分間、鞄を所持した左手でジーンズの上から股間を触り続けたと説明していることが判明しました。そこで、被疑者から当時の電車の混み具合や当事者の立ち位置、被害者の背丈等の説明を受けるうちに、被疑者が痴漢行為をしていないこと、被害者が勘違いをしているのではなく、被害者に成りすましている可能性が高いと確信するようになりました。
 すなわち、この時間帯であれば、淀屋橋駅から梅田駅の間であればある程度混み合っていますが、梅田駅で多数の降車客があり、梅田駅を出てからは、動かなければ他の乗客の体と接触することがない程度の乗客数になります。
 普通、立った状態で手を下におろせば、自分の下腹部までは自然に手が届きますが、他人の下腹部を触ろうとすれば、身体を相手にピッタリとくっつけなければ不可能です。しかも被害者女性の腰の位置が自分の腰の位置よりも高いか同じくらいでなければ下腹部まで手を届かすことはできません。仮にそれら要件を満たしたとしても、被害者と向かい合って立っている場合であればともかくも、被害者の背後に立っている場合や横に立っている場合は、そのままの体勢で手は被害者の下腹部まで届きません。痴漢が他人の下腹部を触っているときは腰をかがめるなどしているのですが、それが他の乗客からも不審に思われないのは、他人の目が届かない通勤ラッシュ時くらいでしょう。しかるに、そのような状況にないときに、腰を落として身体を被害者にピッタリとくっつけたりしていれば、他の乗客から不審な目を向けられてしまいます。被害者は、被疑者よりも背が低かったというのですから、なおのこと被害者が説明するような行為を被疑者がしたとは考えられません。
 しかも、電車の混み具合からすれば、体を少し動すことで容易に痴漢行為を避けることができたのに、6分間も触られ続けていたというのはいかにもおかしな話です。
 痴漢行為が通勤ラッシュ時に多いのは、乗客が押し合い圧し合いの状態で、腰を落として身体を被害者にピッタリとくっつけたりしても、他の乗客から不審な目を向けらないし、被害者も身動きができず、触られても逃げられないからです。
 さらに、被害者は、被疑者が鞄を持った股間を触ったと供述していましたが、被疑者と被害者の車内での立ち位置からすると(立ち位置については、被害者も被疑者と同じように説明していた。)、鞄を持ったまま(指を伸ばせない)では、身体をくっつけても被疑者の手は被害者の股間には容易に届きません。
 そこで、以上のような内容を書面にして捜査機関に提出しました。その後、被疑者の立会のもと同じ車両で実況見分が行われたのですが、その際に刑事が被害者役となって、被疑者の手が被害者の股間には届かないことを確認したようです。

 その後、被害者からの事情聴取が行われた後、被疑者の検事調べを待っていたのですが、いつになっても呼出がなく、何回か問い合わせをしていたところ、逮捕されてから10ヶ月近く経過した日に問い合わせをして不起訴処分となっていることを知らされました。

 本件では、勾留請求が認められず、最終的に不起訴となったのは、他の乗客と接しない程度の混み具合であったこと、立ち位置や身長差から被害者が触られたという股間には自然な体勢では手が届かないことが大きかったのでしょう。

 ところで、男性ばかりの酒席などで、私が弁護士だということもあるのでしょうが、痴漢と間違われたらどうしたらよいのですかと聞かれることがあります。

 本件のように何もしていないのに手首を掴まれて痴漢犯人にされた場合、被害女性が実際に痴漢行為をしていた犯人の手と間違っている可能性があります。
 もしそのような場合、その場で堂々と誤解であることを説明し、疑惑を解くように努めなければなりません。「あなたの周囲にはたくさんの男性がいたではないか」「あなたは、私の手首を掴んだが、この通り私は、この手で鞄を持っていたんですよ。どのようにしてあなたの体を触っていたというのですか」「あなたの誤解で私が逮捕されることになれば、仕事を休んだ間の休業損害を求めて裁判をしますよ。それだけの確信があるのですか」などなど。
 そして、言い争いは避けて、堂々とその場を離れるようにすべきです。その場で相手方と言い争いを続けると、やじ馬に囲まれ穏便にその場を離れることが難しくなります。
 もし駅員に「とりあえず駅長室に来てください」と言われたときには、その理由と根拠を尋ね、駅長室に行く義務も必要もないと堂々主張すべきです。被害者と一緒に駅事務室に行って、そこで話をするのは得策ではありません。被害者が痴漢されたと言い張る場合、駅員は警察に連絡をいれるしかなく、警察が来れば、被害者を同行させて、あなたを警察へ連れて行き、双方から事情を聴取することになります。決して手錠をされるわけではありませんが、法的には、この時点ですでにあなたは被害者によって現行犯として逮捕したものとして扱われているのです(現行犯人であれば、私人でも逮捕できるのです。)。
 もっとも、電車のなかで、被害者女性が、まさしく触られているときに、その手首を掴んだというのであれば、現行犯逮捕の要件を満たしているのでしょうが、背後の人がお尻を触っているものと考え、電車が駅に到着したときに振り返って、後ろにいた人の手首を掴んで、「触っていたでしょ」「一緒に駅長室に来てください」というのは、はたして現行犯逮捕の要件を満たしているのか疑問です。現行犯人とは、現に犯罪を行っている者か、今まさに犯罪を行い終わった者で、罪を犯したという疑い(嫌疑)が非常に強い状況ゆえ私人にも逮捕が認められているのですが、通勤ラッシュ時などでは、誰に触られていたのか被害者女性にとっても明確に分からないと思われます。
 なお、一定の軽い罪に対する現行犯逮捕は、その人の住居もしくは氏名が明らかでない場合、または逃げてしまう危険がある場合に限って許されることにしています。しかし、ここに言う「一定の軽い罪」とは、「30万円以下の罰金、拘留または科料に当たる罪」で(刑訴法217条)、迷惑防止条例違反は該当しません。

 弁護士によっては、「その場から逃げろ」といったアドバイスをする者もいますが、「痴漢や。あの人、捕まえて!」などと叫ばれ、周りの乗客や駅員につかまる可能性があり、その場合は、逃げようとしたということが有罪の証拠とされてしまいます。

 被害者の誤解が溶けず、現行犯逮捕された場合、警察署で担当刑事から取り調べを受けることになります。刑事は、被害者が本当に犯罪被害(痴漢)に遭ったのであり、あなたのことを現行犯として捕まえていると信じ、あなたが嘘をついているという前提で、厳しく追及してきます。
 その際、「迷惑防止条例違反の痴漢の場合は、簡単な裁判で、罰金も50万円から30万円程度や。あんたなら、家族もいるし、勤務先もしっかりしているから、認めたら明日にでも釈放するよ」「被害者と示談して被害届を取り下げてもらったら不起訴処分となって、前科もつきませんよ」などの説明を受けることがあります。この説明内容は、おおよそ正しいのでしょう。
 捜査機関も従前とは違って慎重に対応するようになったように思われますが、あなたがあくまでも否認を維持する場合、捜査機関は拘留請求をするでしょう。その場合、高い確率で勾留決定が出されます。勾留されることになれば、最大で20日間の留置場生活を強いられることになります。この間、勤務先を欠勤することになりますが、その理由をどうするのか、逮捕された事実はごまかしようがありません。無断欠勤を理由に失業するくらいなら、痴漢行為を認めたうえで、被害者と交渉して、被害届を取り下げてもらった方がよいのではと考えるのも無理なからぬところです。
 逮捕拘留中に実際にはやっていないのですが、認めた方がよいのでしょうかといった相談を受けた場合、弁護士としては大変困ります。
 勾留決定が出た場合のことを考えると、罰金程度の金額で被害届を取り下げてもらえるのであれば、痴漢行為を認めたうえで、被害届を取り下げてもらった方があなたが失う利益・被る損害ははるかに少なくてすみます。
 もっとも、痴漢の事実を認め釈放されることになっても、警察は、出頭を確保するため勤務先の上司に身元引受人となってもらうべく、勤務先に連絡を入れる可能性があり、勤務先に知られずには済まないでしょう。また公務員であれば、懲戒事由が詳細に決められていて、痴漢行為で逮捕され、これを認めれば、示談交渉が成立し、被害届が取り下げられて不起訴処分となっても、示談が成立せず、略式裁判で罰金の支払いを命じられても、停職か解雇といった懲戒処分に付されるでしょう。
 相談を受けた弁護士としては、本当に痴漢行為をしていないのかどうかが分かりませんので、ありのままに説明をして、被疑者の判断に任せるほかありません。
 逮捕期間中に否認し続けた結果、勾留請求がなされても、勾留決定が出るとは限りません。勾留決定は、裁判所があなたに弁明の機会を与えたうえですることですが、被害が軽微(着衣の上から短時間触ったという程度)であったり、被害者の説明が不自然であったりすれば、勾留決定がでないこともあります。また、一度容疑を認めてしまうと、後になって否認しても、容易に信じてもらえず、たとえ痴漢行為をしていなくとも、その事実を証明することは非常に困難です。
 前述した事件でも幸い勾留決定は出ませんでしたが、上司が身元引受人となり、勤務先の知るところとなりました。その後、不起訴処分となりましたが、身柄拘束事件でないため、不起訴処分の決定がなかなかなされず、職場では上司や同僚の目が気になる日々を長きにわたって過ごさざるをえなかったそうです。

 


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