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隣接する分譲マンションの敷地境界線の争いについて


 隣接する分譲マンションの敷地境界線が誤っているとして,マンションの管理組合の理事らから相談を受けたことがありました。マンションの四角形の敷地の3辺は、大阪市の道路と接しており,その道路境界線と敷地面積から境界線を図面上におとすと、非常階段部分が少しはみ出ている状態にあることが判明したという事案でした。
 昭和45年ころ、ちょうど大型のマンションが建築され始めた頃に分譲されたマンションでした。大阪市内にあった工場跡地に同じ業者によって順次4棟のマンションが建築され、分譲されたのですが、最初に分譲された1号棟と3年後に分譲された2号棟はマンションの敷地内に設けられた道路(私道でマンションの敷地に含まれる。)を挟んで向かいあって建っています。そして、その敷地は、1号棟が分譲されたときは,敷地は大きな土地の一部を範囲を示して分譲されたというのですが、その際には図面をもって敷地範囲を示されたことはないというのです。そして、その後、2号棟を建てる際に建築許可を取る関係でか、一筆の大きな土地が数筆に分筆された後、何度か合筆・分筆がなされていました。
 問題は、1号棟の非常階段部分が境界線からはみ出ている状態にあるということだけではなく、後から建てられた2号棟の敷地境界線を同じようにして図面上に落としたところ、公図上は接している境界線が接していないことでした。つまり、1号棟と2号棟の間に地番のついていない土地があるのです。双方のマンションの登記簿謄本上の敷地面積が正しいとすれば、この無番地は分譲業者のものとなりますが、そのようなことは分譲業者としても望むことではありません。
 このような場合、1号棟及び2号棟の境界線を土地の所有者の間の協議で確定のうえ、登記簿上の敷地面積を「更正」するという方法があります。これを地積更正といい,登記簿の表題部に記載された地積が、客観的に定まっている当該土地の地積と合致しない場合にこれを訂正するものです。地積更正登記により当該土地の権利関係、形状、範囲等が変更されるものではなく、また、隣接地との境界、隣接地の範囲等に変更が生じるものでもありません。しかし、土地地積更正登記を申請するためには、境界線を確定し、石杭や金属標などの永久的な境界標の設置したうえで、境界確定測量を行い正しい面積を算出しなくてはなりません。そして、境界確定測量を行うためには,隣接地の所有者の立ち会いのもと,境界を確認する必要があります。そして、境界確認書を取り交わさなければなりません。幸い責任を感じた分譲業者は、境界確定のための測量費用や地積更正登記のための費用を負担すると申し出てくれました。
 しかし、問題はここからでした。1号棟と2号棟の間には道路があり、2号棟管理組合はその道路を2号棟の敷地と考え、一部を駐車場として賃貸し、賃料収入を得ていたのですが、1号棟の外壁の補修工事のために道路に駐車された車両の一時的な撤去を求めて紛争となったことがありました。このとき1号棟の区分所有者の中には、道路の中央が境界線と思い込んでいる者もあり、2号棟がその道路を駐車場にしていることに疑義を呈して境界線についても争いとなりました。過去のそのような経緯もあって、双方の理事の中に相手方に対し遺恨を持つ者もいました。そして、中には,強行に境界確定訴訟をするとまでいう人もいて、当事者間の話し合いはなかなか進展しなかったようです。
 私は、事件受任に際して、訴訟をせずに解決するということを条件としました。というのは、境界確定訴訟を提起することが実際上不可能だからです。
 マンションの管理者は,共用部分等の維持・管理に関しては,「区分所有者を代理するものとする」(法第26条第2項関係)とされていて,規約又は集会の決議により,区分所有者のために,原告となって訴訟を提起したり、被告となることができますが,敷地の境界確定は,共用部分等の維持・管理に関するものとは言えません。しかも、境界確定の訴えというのは、境界の位置に争いがある場合に裁判所に確定してもらう訴訟ですが、その結果如何によっては土地の範囲を変更したのと同じ結果が生ずることになります。しかるに、共有地の処分に関する民法251条の「各共有者ハ他ノ共有者ノ同意アルニ非サレハ共有物ニ変更ヲ加フルコトヲ得ス」との規定の趣旨から、土地の所有者全員が訴訟を提起する必要があります。
 なお、最高裁判、昭和46.12.9判決は、「土地の境界は、土地の所有権と密接な関係を有するものであり、かつ、隣接する土地の所有者全員について合一に確定すべきものであるから、境界の確定を求める訴えは、隣接する土地の一方または双方が数名の共有に属する場合には、共有者全員が共同してのみ訴えまたは訴えられることを要する固有必要的共同訴訟と解するのが相当である」としております。
 したがって、本件で1号棟と2号棟の境界確定訴訟を提起しようとすれば、1号棟の区分所有者全員が原告として、2号棟の区分所有者全員に対して訴訟を提起するほかないことになります。しかし、双方のマンションの区分所有者は400人以上いるのですが、訴訟を提起することに1号棟の区分所有者全員の賛同を得ることは不可能ですし、2号棟の区分所有者全員に訴状を送達するとなると大変な手間と費用(80万円以上)がかかります。またいずれのマンションでも空き家となっているところがあり、所有者を捜し出すだけでも大変なことが予想されました。加えて、訴訟を提起するとなると正しい境界を示す図面を作成しなければならず、数百万円はかかるであろう測量費用を負担しなければなりません。
 事件受任後、地積更正登記を申請する前提で、1号棟の敷地範囲を図示したうえで、その範囲の土地について2号棟管理組合法人との関係で申立人である1号棟管理組合の所有であることの確認と分譲業者は、境界確定のための測量費用や地積更正登記のための費用を負担するとの調停を求めて簡易裁判所に申立をしました。
 強行な意見の理事が辞任するなどのことがありましたが、数回の調停期日を経て、半年後には両方の管理組合と分譲業者の間で合意ができました。
調停条項は、1号棟の敷地範囲について1号棟が所有権を有することを確認し、双方が境界線につき筆界確認書を交わすこと、そして、2号棟管理組合法人は、1号棟管理組合に対し、地積更正に協力すること、分譲業者は、境界確定のための測量費用や地積更正登記のための費用を負担することを内容とするものです。もっとも、それで直ちに調停成立というわけにはいきません。
 双方の管理組合は、臨時総会を開催し、調停案について総会の承認を得たうえで、その議事録を裁判所に提出し、裁判所は調停案について総会の承認を得たことを確認したうえで、調停成立となりました。
 もっとも、この調停調書は、何ら強制執行できるような条項がありません。調停条項にしたがって当事者の協力のもと地積更正登記の手続きが進められて初めて地積更正がなされるわけで、実際にも無事に終わりました。
 


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