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○マシュマロに発生したカビとその責任について


 クリスマスにキャンディーやチョコ、グミなどのいろんなお菓子をブーツ型の容器に詰め合わせにした商品がありますが、その販売業者から注文を受け、マシュマロを納入した菓子製造業者から委任を受けた事件でした。
 販売業者がカビが発生したことを理由に売買代金を支払ってこなかったため、売買代金の支払いを求め訴訟を提起しました。これに対し、販売業者は、カビが発生したのは、製造業者の製造過程に問題があったからだとして反訴を提起し、損害賠償請求をしてきました。
 第1審は敗訴しましたが、控訴審で逆転勝訴した事案です。

 食品にカビが発生したとなると製造業者に何らかの落ち度があったのではないかと考える人が多いのでしょうか。相手方代理人は事前の交渉段階から強気一辺倒でしたし、別件で和解解決した事案でも裁判官までもが当然のごとく製造業者に責任があるという見方をしていることがうかがわれました。
 そのため、まずは食品製造過程で、カビの胞子が製造中の商品に付着することを防止する方法がないというこを理解していただく必要がありました。すなわち、カビの菌糸は、空気中、食品表面や内部などいたるとこるに存在し、目には見えない胞子の形で絶えず空中を漂っています。製造工場を清潔に保っていても、人間や機械器具類に付着していたり、空中を浮遊して外部から侵入してきます。したがって、カビの胞子が製造中の菓子類に落下し、付着することは不可避なのです。
 ただ、カビの種族は多数あり、生育温度等の諸条件も様々ですので、菌数が増えれば生育可能な菌種も増えるという関係にありますので、製造工場の空気中に浮遊するカビの菌数と菌種の量を少なくすることでカビの発生可能性を低くすることはできます。
 また、カビの胞子が付着していることと、カビが出現することとは同じではありません。栄養源たる食品に付着していても、水分、温度、酸素、pH等の条件が整わなければカビが発芽・繁殖することはありません。カビの発生を防ぐには、これらの諸条件のいずれかをカビの生育できない条件に設定すればよいのです。

 マシュマロの場合、それ自体に栄養源が含まれていますし、密封されたピロ包装内には空気(酸素)があります。また製造後は、流通段階や販売段階で常温保管が前提とされています。そのため製造業者は、これらを所与の条件として、水分活性を0.71程度に、酸性度をpH3.8程度に調整することで、直射日光や急激な温度変化、あるいは高温状態を避けて、常温で保管しておけば、カビが発生することがないようにしています。
 当然、本事案でも製造業者は、水分活性やpHの調整には自信を持っており、カビの発生は、納品後の保管に問題があったと確信していました。その確信は、製造業者が他の販売業者に納入した製造ロットを同じくするマシュマロには、カビが発生していなかったからです。
 訴訟では、カビの発生は納品後の保管に問題があったと主張したところ、販売業者は、納品後の保管やお菓子の詰め合わせ作業所の温度管理に関する記録を提出するとともに、作業所からの納品には保冷車を使用したこと、そして、その際の保冷車の設定温度など詳細な証拠を提出してきました。
 また、販売業者は、納品時には検品をしていたし、詰め込み作業時にも検品をしていた記録を証拠として提出してきました。
 製造業者は、納品後、商品がどのような状態で保管されていたのかはわからなかったのですが、これによって、マシュマロ納品後の保管状態が18.5℃〜26℃の範囲内で保管されており、アスペルギウス属のカビの発生最適温度か、あるいは、それに近い温度であったにもかかわらず、カビが発生していないことが明らかになったのです。
 このことは製造業者にとっては、幸いなことでした。なぜなら、一般にカビの胞子は保管場所の温度が20℃を超えると急速に活気づき、28℃あたりでは繁殖が一番盛んになること、アスペルギウス属のカビの発生最適温度は28℃で、発芽・繁殖の条件が整うと、2〜3日で目に見える塊(集落)、つまりカビとなること、そして、保管状態が20℃を超えている場合は、繁殖が活発になり目に見える集落を形成する、つまりカビが発生するまでに10日も要しないことから、もし控訴人の製造上の過失で一部分が高い水分活性となっている場合、あるいは、ピロー包装をするに際して、マシュマロが十分に冷まされていなかったため結露を生じていた場合は、出荷までの間にカビの胞子は発芽し、繁殖を始めており、販売業者の検品を受けた時点で、すでに目に見えるカビの塊になっているか、いまだカビが発生していなかったとしても、納品後の保管状態からすれば、遅くとも詰め合わせの際に実施された目視検査や食味検査の時点で、カビの発生は確認されていたはずであるということができるからです。
 すなわち、これらの時点でいまだカビが発生していないということは、製造後、納入時までの保管状況にはカビの発生原因がなかったと推測されます。
 販売業者の主張では、マシュマロにカビが発生していることが最初に確認されたのは、平成18年11月4日で出荷先からの連絡を受けてのことで、さらに、同月22日頃に在庫商品を開封してカビの有無を確認したところ、相当数の商品にてカビの発生が認められたというものでした。この時点で、製造後、すでに3ヶ月以上(納品後約3ヶ月)経過していました。
 カビの胞子がカビとなるには、常温保管で10日程度ですから、カビが発生したのは、詰め合わせの作業所から販売業者の倉庫に搬入されたとき以降と推測されました。
 そして、マシュマロのピロ包装内に結露ができて、その水分がカビの発生につながったのではないかと考え、販売業者が作業所からその倉庫までの移動に保冷車を用いたことか、あるいは、何らかの事故で、倉庫の保管温度に大きな変動があってのではないかと疑いました。
 このときネット上での検索でひっかたのが株式会社日通総合研究所の研究結果でした。同研究所は、夏期にトラック荷台の温湿度の変化、すなわち、@外気温と荷台内温度の変化、A荷台内温度と荷台内湿度の変化(温度上昇に対し湿度低下、温度低下に対し湿度上昇)を解析し、以下のような研究結果を発表していました。

                   記

 「商品をトラックで運送する場合、トラックの荷台は、日中、日光が当たると急激に上昇し、午後1時から2時頃にピークを迎え、外気温に比べて15℃以上も高くなる場合がある。」
 「鉄道輸送や海上輸送に使用するコンテナのように輸送容器の密閉度が高い場合、通常はコンテナ内の水分量は変化せず、したがって温度が上昇するほど相対湿度は下がり、コンテナ内は乾燥状態となる。このとき、貨物やパレット、段ボールなどが含んでいる水分が蒸発するとコンテナ内の水分量が増加することになる。夜間になって温度が下がり、水蒸気として空気中に飽和することができる容量をオーバーフローすると・・・「結露」となる。」

 本件では、販売業者は、作業所から倉庫に商品を搬送する際、保冷車を用いているのですが、かようにトラックの荷台が、日中、日光が当たると急激に上昇し、外気温に比べて15℃以上も高くなることからすると、保冷車でないとクリスマスブーツに同包されているチョコレートが溶けてしまうのを恐れたのでしょう。しかし、その結果、マシュマロも保冷車で運ばれることになったのですが、コンテナに結露が発生するメカニズムは、ピロ包装されたマシュマロにそのまま当てはめることができます。すなわち、20℃以上の室温で保管されていたマシュマロが保冷車に積み込まれることで、急に温度が下がることになり、ピロ包装内の空気中に水蒸気として存在しうる容量を超えたことで結露となった可能性があると主張しました。
 これらの主張立証の結果、高等裁判所は、カビの発生原因を納品後の温度管理に原因があったとして、販売業者の反訴を退け、売掛金の請求を認めてくれました。

 カビが発生したとなると、裁判官も相手方の代理人弁護士も頭から製造業者に責任があると考え、論じてきます。ところが、カビの発生の遠因は製造段階でカビの胞子が食品に付着することにあり、その胞子の活動条件が整うと活性化し、カビとなるということを理解することから始めなければなりませんし、カビの胞子が活性化する諸条件、カビの発生を制御する方法等も専門的知識に乏しい者にとっては、大変な苦労でした。伝手を頼って神戸大学の助教授に教えを請いにも行きましたが、カビの発生原因を特定することは無理との意見しかもらえませんでした。加えて私が調べた限りでは刊行物に掲載されいてる判例はありませんでした。1審で敗訴したこともあり、本当に苦労した裁判でした。







 

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